日記:自由とは単にしてよいこと、してわるいことの問題ではない

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 人間が高貴で美しい観照の対象となるのは、彼自身のうちにある個性的なものをすべて磨りへらして画一的なものにしてしまうことによってではなくて、他人の権利と利益とによって課された限界の範囲内で、個性的なものを開発し喚起することによるのである。そして、およそ人間の事業はそれを行う人々の性格を分けもつものであるから、右と同じ過程を経て、人間の生活もまた、豊富で多彩で正気溌剌としたものとなり、高い思想と崇高な感情とに対してより豊かな栄養を与えるものとなり、さらに、民族を、限りなく所属するに値するものとすることによって、すべての個人を民族に結びつけるところの紐帯を一層強固なものとするのである。各人の個性の成長するに比例して、彼は彼自身にとって一層価値あるものとなり、したがってまた他人にとっても一層価値あるものとなりうるのである。
    −−J.S.ミル(塩尻公明、木村健康訳)『自由論』岩波文庫、1971年、177頁。

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覚え書:「核戦争の瀬戸際で [著]ウィリアム・J・ペリー [評者]立野純二(本社論説主幹代理)」、『朝日新聞』2018年02月18日(日)付。



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核戦争の瀬戸際で [著]ウィリアム・J・ペリー
[評者]立野純二(本社論説主幹代理)
[掲載]2018年02月18日

■対話と抑止を両立させる意義

 まるで、けんかにはやる子どもたちを諭す老教師の光景だった。90年代末、米議会で北朝鮮政策を語ったウィリアム・ペリー氏の姿を私は今も思いだす。
 脅しに屈するのか。なぜ敵と対話するのか。いらだつ議員たちの問いに、元国防長官は噛(か)んで含めるように、対話と抑止を両立させる意義を説いた。
 北朝鮮を孤立させれば崩壊すると信じるのは希望的な観測に過ぎない。米軍の態勢を維持しつつ、相手の真意を探る。それが当時、「ペリー・プロセス」と呼ばれた政策の肝だった。
 20年後の今、北朝鮮問題は再び危機を迎えている。核をめぐる緊迫の度ははるかに増したが、為政者たちの思考は同じ轍(てつ)を踏んでいるようにしか見えない。
 日米両首脳は、ひたすら圧力を連呼し、トランプ大統領は「核戦争」まで口にした。米政権は「使いやすい」小型の核弾頭を開発する戦略も発表した。
 人類の破滅を憂える想像力が、なぜここまで失われてしまったのだろうか。
 核問題の最前線に立ち続けた、90歳の回想録はまさに時宜にかなう。東京と那覇の焼け跡を起点に、冷戦の核競争、キューバ危機、旧ソ連の核解体などに取り組んだ教訓をたどる。
 核ミサイルをめぐる誤認など相互破壊態勢下の緊張をへて、到達した結論は明快だ。「核兵器はもはや我々の安全保障に寄与しないどころか、いまやそれを脅かすものにすぎない」
 11年前にキッシンジャー氏らと「核なき世界」への提言を発表した。その確信は今も揺るぎない。核攻撃されても国を守れるという発想は絶望的な現実逃避であり、核の危険性は除去できないという信仰を「危険な敗北主義」と断じる。
 トランプ政権の核軍拡にさえ追従する日本政府は、敗北主義の代表格だろう。政治的な強硬論が幅を利かせ、核政策までもがポピュリズムに流される。そんな時代の到来を、私たちはもっと恐れねばならない。
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 William.J.Perry 27年生まれ。米クリントン政権で93年に国防副長官に就任、94〜97年国防長官。
    −−「核戦争の瀬戸際で [著]ウィリアム・J・ペリー [評者]立野純二(本社論説主幹代理)」、『朝日新聞』2018年02月18日(日)付。

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対話と抑止を両立させる意義|好書好日





核戦争の瀬戸際で
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覚え書:「ぼくたちはこの国をこんなふうに愛することに決めた [著]高橋源一郎 [評者]サンキュータツオ(お笑い芸人、日本語学者)」、『朝日新聞』2018年02月18日(日)付。

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ぼくたちはこの国をこんなふうに愛することに決めた [著]高橋源一郎
[評者]サンキュータツオ(お笑い芸人、日本語学者)
[掲載]2018年02月18日

 そろそろ春休みだ。この本は、夏休みに「くに」をつくることになった、ぼくとはちがう学校にかようランちゃんという小学生の考えが書かれている本だ。ぶんしょうも、ぼくが書くのとおなじくらいのレベルでわかりやすい。ランちゃんとその友だちは、憲法をつくり、「名前のないくに(仮)」をつくっていく。正直、ぼくも「こく民」になりたかったけど、おかあさんに許してもらえなさそうだ。彼らが通う学校は、変わった先生ばかりだったんだ。
 ランちゃんは、考えていることが大きいわりに、語ることは家族や友だちの話ばかりで、世界が小さい。だけど、ぼくは思うんだ。「くに」について考えることは、家族のことを考えることでもあるんだって。それに、ランちゃんはムダ話が多い。けれど、その一見ムダに思える話が、自分のことのように思えた。ムダにこそ人の考えがでてるのかな。
 ぼくでも読めたんだ。この春休みに、一緒にぼくらなりの「くに」をつくろう。
    −−「ぼくたちはこの国をこんなふうに愛することに決めた [著]高橋源一郎 [評者]サンキュータツオ(お笑い芸人、日本語学者)」、『朝日新聞』2018年02月18日(日)付。

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ぼくらなりの「くに」をつくろう|好書好日










覚え書:「ギガタウン—漫符図譜 [著]こうの史代 [評者]野矢茂樹(東大教授)」、『朝日新聞』2018年02月18日(日)付。

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ギガタウン—漫符図譜 [著]こうの史代
[評者]野矢茂樹(東大教授)
[掲載]2018年02月18日

 漫符ーー漫画で様々なことを表現する記号である。額に縦線が何本も引かれていれば青ざめているのであり、頭上に「ガーン」と描かれていれば何かが落っこちたのではなく、ショックを受けたのである。本書はそんな漫符を百以上取り上げて解説する。
 なれている人にはどうってこともないが、漫符が分からないために漫画が読めない人もいるという。そういう人はこの本を手元において漫画を読むといいのかもしれない。だけど、本書はむしろ読みなれている人の方が面白いだろう。だって、こめかみに雫(しずく)を描けば感情表現になるなんて、考えてみれば不思議なことじゃないですか。
 鳥獣戯画の動物たちをキャラクターに、漫符を実際に使った四コマ漫画が並べられる。まあ、率直に言ってすごく面白いわけではない。でもそれが逆に、なんというか、こうの史代らしくいい感じで、読んでいると顔の筋肉が微妙にゆるんでくる(ハート)
    −−「ギガタウン—漫符図譜 [著]こうの史代 [評者]野矢茂樹(東大教授)」、『朝日新聞』2018年02月18日(日)付。

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顔の筋肉が微妙にゆるんでくる|好書好日




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覚え書:「社説 核廃絶運動 世界に新たなうねりを」、『朝日新聞』2017年10月07日(土)付。

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社説 核廃絶運動 世界に新たなうねりを
2017年10月7日

 今年のノーベル平和賞が、国際NGO「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN〈アイキャン〉)に贈られる。122カ国の賛同でこの夏に採択された核兵器禁止条約への貢献が評価された。

 国連が71年前の最初の総会決議で掲げた核廃絶へ向け、ICANが機運を復活させた。ノーベル委員会はそう称賛し、世界のすべての反核運動への表彰でもある、と強調した。

 核兵器の非人道性を訴えるICANの主張を支えたのは、広島、長崎で原爆に遭った被爆者たちである。国際会議やネットを通じ、生々しい声が国際世論を揺さぶった。

 画期的な条約の成立に続く、ICANへの平和賞決定を、被爆者、日本のNGOなどすべての関係者とともに歓迎したい。「核なき世界」をめざす国際機運をいっそう高める節目とするべきだろう。

 ICANは、核戦争の防止に取り組む医師らのNGOを起点に、100カ国超にまたがる500近い団体の連合体だ。多彩な分野でそれぞれの強みを発揮する特長がある。

 医師や科学者は核戦争の被害を科学的に示し、法律家は条約の案文を作った。軍需産業の監視団体は、核関連企業への資金の流れを明らかにした。政治家や元外交官らも含め、多面的な働きかけを積み上げたことが条約成立の下地を作った。

 だが、それでも核廃絶に向けた潮流は滞っている。先月に始まった条約の署名では53カ国が応じたが、核保有国はゼロ。米国の「核の傘」の下にある日本も不参加を表明した。

 トランプ氏とプーチン氏の米ロ両首脳とも核軍拡に前向きであるうえ、北朝鮮の核開発の脅威はきわめて深刻だ。

 ただ、核が再び使われれば、人類に破滅的な影響が避けられない。その危機感がICANや被爆者らの努力で世界に浸透した意義は大きい。核に依存する政治家らの考えを変えるには、引きつづき市民社会に働きかけていくしかない。

 日本原水爆被害者団体協議会日本被団協)は昨春、「ヒバクシャ国際署名」の運動を始めた。9月末までに515万の署名を得た。20年までに世界で数億人まで増やすのが目標だ。

 多くの市民が廃絶の意思を共有し、「核兵器ノー」の包囲網を築いていく。ICANの受賞決定を、世界的なうねりへとつなげるきっかけにしたい。

 被爆国でありながら、ICANや被爆者の願いに背を向けたままの日本政府は、その姿勢が改めて問われることになろう。
    −−「社説 核廃絶運動 世界に新たなうねりを」、『朝日新聞』2017年10月07日(土)付。

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(社説)衆院選 「希望」公約 浮かぶ自民との近さ:朝日新聞デジタル