覚え書:「今週の本棚・本と人:『風』 著者・青山七恵さん」、『毎日新聞』2014年07月06日(日)付。
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今週の本棚・本と人:『風』 著者・青山七恵さん
毎日新聞 2014年07月06日 東京朝刊
(河出書房新社・1512円)
◇疾走する人間関係を凝視−−青山七恵(あおやま・ななえ)さん
「人間関係って、止まれないんでしょうね。関係は思わぬ方向に進んでしまうこともあるけれど、止まると死んでしまう」。誰にでも覚えがあるような痛々しさ、はたまた、とてつもないエキセントリックさ。そんな人間関係の疾走ぶりを凝視する短・掌編小説4本を収録した。
「二人の場合」は、女性2人が大手肌着メーカーに同期入社して以来の15年間を描く。まだ学生気分の抜けない20代前半、2人は女の集団を嫌って「ゲロゲロ!」と意気投合。働き、疲れ、やがて一方は退職して自由に生き、一方は勤めながら家庭を営む。親友同士の2人だからこそ、相手に対して沈黙が増えていく悲劇。苦楽を共にした日々の輝かしさゆえ、ラストのコーヒーショップのくだりは思わず落涙……。長編を読み終えたかのような重量感がある。
「最初は、友情が地味に燃え尽きちゃうところを書きたかったんです。でも『別れましょう』で終わる恋愛と違って、友情にははっきりした決別がない。私の会社員時代のお友達をイメージしながら、最悪のパターンを想定しました。あ、私たちは今も仲良しですよ」。ドラマチックではない局面を見つめる、突き放した筆がさえわたる。
そして表題作の「風」は、50代姉妹の奇怪な日常だ。着想の源は昨年の初夏、2歳下の妹と約10年ぶりに海外旅行したことだった。「自分の人間関係の基礎が、幼いころの妹との関係性にあると気付いたのです。私は常に、妹との関係を再現しようとしていました」。小説の姉妹は互いに依存し合う。1人になるくらいなら死んだ方がまし、先に死なせてなるものかと激しく争う。愛憎の究極を見る。
「私の理想をすごく極端にするとこうなるんです」。ラストは、マーチングバンドに入っている妹が太鼓をたたきながら商店街のお祭りで行進する。姉はそれを猛然と追いかける。<「ほおらね!もう間違った!あたしはもっとできる!あんたなんかより、もっと上手にできるんだから!」>
「生身で誰かとつながっていたい、人間はそういうものだと思います。それを突き詰めたのが『風』です。生身の体と心でもってぶつかり合って、他者を自分の命にまで介在させる。私は、そんな激しい関係にひかれるのです」<文と写真・鶴谷真>
−−「今週の本棚・本と人:『風』 著者・青山七恵さん」、『毎日新聞』2014年07月06日(日)付。
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http://mainichi.jp/shimen/news/20140706ddm015070031000c.html