覚え書:「キャプテンサンダーボルト [著]阿部和重、伊坂幸太郎 [評者]佐々木敦(批評家・早稲田大学教授)」、『朝日新聞』2015年01月11日(日)付。


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キャプテンサンダーボルト [著]阿部和重伊坂幸太郎
[評者]佐々木敦(批評家・早稲田大学教授)  [掲載]2015年01月11日

■才気と技術が融合した合作

 合作小説という試み、先例がないわけではない。だが、阿部和重伊坂幸太郎という、当代きっての人気作家二人の合作となると、話は別である。期待するなという方が無理な話だし、ともすれば期待は膨らみ過ぎて、読むのが怖くなってしまうかもしれない。だが大丈夫。これは両者の才気と技術が見事に融合し、更にそれ以上のケミストリーも生じた、実に痛快無比な作品だ。
 阿部の「神町サーガ」の舞台、山形と、伊坂小説の特権的なトポス(場所)である仙台の、ちょうど中間に位置する蔵王が、物語の中心に据えられている。東京大空襲の夜、B29が蔵王に墜落したという謎めいた史実。蔵王連峰が抱える火口湖「御釜五色沼)」付近で撮影された戦隊ヒーロー物『鳴神戦隊サンダーボルト』の映画のお蔵入り事件。何らかの目的で過去の出来事を探っている正体不明の女性。彼女に秘(ひそ)かに雇われた、沈着冷静なコピー機リース会社営業の男。その幼馴染(おさななじみ)で、行動力抜群だが性格が災いしてとかく他人から誤解されやすい男。もう若くはない二人の男は、かつて野球少年であり、ともに「サンダーボルト」のファンだった。そして二人とも、それぞれの理由で大至急、金を必要としていた。偶然に偶然が重なり、彼らは不気味な怪人に追われる羽目になる。次から次へと事態は展開し、やがて隠された巨大な陰謀が顔を覗(のぞ)かせる……。
 とにかく物語が抜群に面白い。荒唐無稽と呼んで差し支えない内容を、二人の小説巧者が持てるテクニックを駆使してスピーディーに語り切る。好対照の主人公二人を始め、ほんのちょい役に至るまで、キャラの立ち具合もめざましい。夢中になって読み進めている内に、これが誰と誰が書いた小説であったのかも、だんだんどうでもよくなってくる。もちろんそれだって二人の作者の術策に他ならないのだが。
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 文芸春秋・1944円/あべ・かずしげ 68年生まれ。『ピストルズ』/いさか・こうたろう 71年生まれ。『死神の浮力』
    −−「キャプテンサンダーボルト [著]阿部和重伊坂幸太郎 [評者]佐々木敦(批評家・早稲田大学教授)」、『朝日新聞』2015年01月11日(日)付。

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才気と技術が融合した合作|好書好日










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