覚え書:「くらしの明日 私の社会保障論 おとなしくなった若者=山田昌弘」、『毎日新聞』2015年01月21日(水)付。


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くらしの明日
私の社会保障
おとなしくなった若者
増える「平穏無事に暮らしたい」
山田昌弘 中央大教授

 成人式が終わった。今年も親同伴での出席が多かったという。私が若い頃に比べると、若者のイメージが大きく違ってきているのではないだろうか。
 今から30年前、私が青年だった頃は、良くも悪くも親や社会に対して反抗的な若者が多かった。社会の伝統や権威に疑問を持ち、従来のしきたりに反して自由に行動することが、若者らしさといわれていた。レジャーや恋愛を楽しみ、中には、政治活動や市民運動に身を投じる者もいた。大人たちに「今の若い者は」と眉をひそめられながらも、新しいことに挑戦していった。ほとんどの若者は、ある程度の年齢になれば、就職して家庭を築き、安定した生活を営む。それでも「やりたいことをやった」という経験は、後の人生の活力になったと思う。最近、「今の若い者は」という言葉は、意味が逆転してしまったようにみえる。
 昨年、統計数理研究所から「2013年日本人の国民性調査」の結果が発表された。そこの「仕事や遊びなどで自分の可能性を試すために、できるだけ多くの経験をしたい」という回答が、この30年間で若者世代で大きく減り、中高年世代で大きく増えている。1983年には、20代で80%、50代で52%と大きく差があった。それが13年には20代が68%、50代が63%と、ほとんど差がなくなった。一方、20代で「平穏無事に暮らしたい」との答えは19%から31%へと大きく増えた。
 周囲や報道などを見ても、この傾向が強まっている。海外で若い日本人の一人旅を見かけるのが少なくなる一方、一人や夫婦で旅をしている中高年日本人に出会うことが多くなった。中高年ライダーが増加し、事故も増えているが、若い暴走族という言葉を聞くことは少なくなった。新聞や雑誌の相談コーナーでは中高年の恋愛相談が盛況だが、若者は恋愛にますます消極的になっている。あらあしいことに挑戦し、いろいろな経験をしようとしているのは、若者よりも中高年のようにみえる。
 何が若者をおとなしくさせたのだろうか。ある大学生からは「就職できるか不安で、恋愛する時間がない」という答えが帰ってきた。新しいことに挑戦するのにも余裕が必要だ。経済的にも心理的にも余裕があるのは中高年の方かもしれない。「変わったことをしたり、人と意見が違ったりすると、周りからにらまれて孤立するからやらない」という学生もいた。
 いずれにしろ、今の若者は、就職活動や周りに気を使うことに、エネルギーを使い果たしているようにみえる。若者がやりたいことをする、という機会をどうしたら実現できるのか、考えなくてはならない時代になったようだ。
日本人の国民性調査 統計数理研究所が1953年以降、5年ごとに実施。調査対象は20歳以上の男女。昨年10月に第13次調査結果が発表され、「まじめに努力していればいつかは報われる」と思うかどうかを尋ねた項目では、20代、30代の男性で「報われない」と考える人が約4割と突出した。
    −−「くらしの明日 私の社会保障論 おとなしくなった若者=山田昌弘」、『毎日新聞』2015年01月21日(水)付。

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