覚え書:「書評:アジア再興 帝国主義に挑んだ志士たち パンカジ・ミシュラ 著」、『東京新聞』2015年01月18日(日)付。

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アジア再興 帝国主義に挑んだ志士たち パンカジ・ミシュラ 著

2015年1月18日
 
◆支配からの解放導く思想
[評者]臼杵陽(うすきあきら)=日本女子大教授
 かつて「三国一」という表現があった。「世界一」という意味である。三国とは日中印であり、現在の私たちの認識でのアジアの範囲でもある。インド以西は地理的には西アジアとはいうものの、アジアの感じはしない。西アジアイスラーム圏だからである。
 本書は十九世紀末から二十世紀初頭の帝国主義の時代を生きた、三人の知識人の思想と行動を中心に植民地支配から解放へのシナリオを描く。中国の梁啓超(りょうけいちょう)、インドのタゴール、そしてインド、イラン、エジプト、オスマン帝国などで活躍した汎イスラーム主義者のアフガーニーの志士群像である。
 アジア再興に思想的に貢献した人物の組み合わせの妙が欧米の読書人の話題をさらった。というのも、同じアジアといってもイスラーム圏までも含めて同じ土俵で議論されることはこれまでほとんどなかったからである。
 本書の原題は「帝国の廃墟(はいきょ)から−アジアを作り変えた知識人たち」である。帝国とはかつてアジアに君臨した清朝ムガル朝オスマン朝などだ。
 本書の影の主人公は脱亜入欧の旗印の下に欧米列強の仲間入りを果たした大日本帝国である。日露戦争での日本の勝利からインド出身の著者は筆を起こす。黄色人種が白人を破ったことが欧米列強支配からのアジア再興の出発点となり、強烈な衝撃をアジア同胞に与えたからである。だが、日本はアジア・太平洋戦争アジア諸国を侵略した。その意味では反面教師でもある。
 二十一世紀の現在、西欧出自の国民国家体制が行き詰まっている。アジアの改革者たちは旧帝国の知的遺産に依拠しつつ自己変革によって列強支配に立ち向かった。改革への構想は西洋=文明/東洋=野蛮という二分法的世界観を克服するヒントを内包していた。
 今世界を動かしている中国、インド、イスラームが旧帝国の廃墟から復興した歴史過程を本書はダイナミックに分析する。躍進するアジアの現実に直面する日本人にも示唆的な歴史論だ。
(園部哲訳、白水社・3672円)
 Pankaj Mishra 1969年インド生まれ。作家。米英の紙誌で執筆。
◆もう1冊
 E・W・サイード著『オリエンタリズム』(上)(下)(今沢紀子訳・平凡社ライブラリー)。西洋人の東洋への見方を分析、批判した論集。
    −−「書評:アジア再興 帝国主義に挑んだ志士たち パンカジ・ミシュラ 著」、『東京新聞』2015年01月18日(日)付。

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