覚え書:「くらしナビ・ライフスタイル:女の我慢は社会の矛盾 日本のフェミニストを映画化」、『毎日新聞』2015年01月20日(火)付。

1_4

        • -

くらしナビ・ライフスタイル:女の我慢は社会の矛盾 日本のフェミニストを映画化
毎日新聞 2015年01月20日 東京朝刊

(写真キャプション)映画「何を怖れる」より。上野千鶴子さん(左端)、田中美津さん(左から2人目)らフェミニズムにかかわった女性たちが集った=エッセン・コミュニケーションズ提供

(写真キャプション)松井久子監督=田村佳子撮影

 1970年代初頭に始まった「ウーマンリブ」以降の女性史を、当時の映像と、運動にかかわった女性たちへのインタビューで振り返るドキュメンタリー映画「何を怖(おそ)れる フェミニズムを生きた女たち」が東京・渋谷のシネパレスで公開中だ。「自分は若い頃から彼女らとともに生きたフェミニストではなかった」と率直に語る松井久子監督(68)は、歴史を振り返りながら、いまの女性を取り巻く課題を社会に問いかける。

 ●14人の証言中心に

 映画は、現在も広く活躍する評論家の樋口恵子さんや、社会学者の上野千鶴子さん、日本のウーマンリブ運動の中心的存在だった田中美津さん、田中喜美子・グループわいふ代表ら14人へのインタビューを中心に構成する。学生運動、お茶くみ反対闘争など時代のキーワードとともに、2013年に安倍晋三首相が話した「3年間抱っこし放題」も話題に上る。

 「フェミニズム」「フェミニスト」は国内外を問わず、必ずしも肯定的に受け止められる言葉ではない。松井監督もそうした意識を持っていたという。ウーマンリブ世代と同時代を生きながら、20代から雑誌ライター、テレビプロデューサー、映画監督と、いずれも当時女性では極めて珍しい「男の仕事」をつかんできた松井監督は、フェミニストは「男社会で、もまれた自分とは違う世界の人」と考えていた。

 だが今回、彼女らの話は「身をもって経験したことばかり」だった。「働きながらの家事育児では夫に負担をかけまいと頑張った。家庭が円満で、仕事でも男性に認められるためには、自分を殺し我慢するのが女の美徳」−−。男性と肩を並べてきた自分も、そうして耐えてきた女性の一人に過ぎなかったと気づいたという。

 女性が我慢しなければならないのは、そうでなければ家庭や社会が機能しないからではなく、「社会構造に問題があるから。だとしたら私たちは『何をおそれるのだ』」。その思いを映画のタイトルに込めた。

 女性は結婚しているかどうか、子どもがいるかいないか、仕事を続けているか専業主婦かでも対立しがちだ。それも同様に社会構造による分断なのに「あの人たちとは違う、私たちは頑張っている、と女性同士で線引きしていないか」と松井監督は問いかける。

 映画は、フェミニズムにかかわる一人一人の女性がどう生きたかを点描する。「この人たちのすてきなところは、それぞれがその道一筋に、強く、おおらかに生きてきたこと。周囲から疎まれても闘い続けてきた人は美しい」。若い世代の中で、現代社会に生きづらさを感じ、「社会は変わらない」と無力感を抱える人には、映画をきっかけに「自分の人生を本当に生きているか」を振り返ってほしいという。

 ●「光」一握りだけ

 松井監督はこれまで女性を主人公にした劇映画を撮ってきた。初のドキュメンタリー映画に取り組んだのには二つの理由がある。一つは、出演者の田中喜美子さんから「フェミニストの記録を映像に残してほしい」と依頼されたこと。「時代の先端を駆けた女性」たちも、多くが既に70代、80代で老いを迎えた。「今しかない」という思いのもと、当事者が勢ぞろいして発した言葉は、女性解放の貴重な証言集となっている。

 もう一つの理由は、女性をとりまく現状への危機感だ。寓話(ぐうわ)に包んで伝えるより、女性たちの生の言葉が必要と考えた。「政治は『女性活躍社会』というが、光が当たっているのはほんの一握りの選ばれた女性だけ。これほどのうそはない。子どもを産んでも働けるシステムが十分でなく、社会も男性も意識が変わらなければ、女は産みなさい、働きなさいと社会の矛盾をすべて抱え込まされてしまいます」

    ◇

 渋谷シネパレスでの上映は2月6日ごろまでの予定。2月7−20日、横浜市のシネマリンでも上映される。いずれも一般1500円、シニア1000円。その他の地域で自主上映会を行う主催団体も募集している。

 また、渋谷シネパレスでは20、23−25日の上映後、樋口さん、井上輝子・和光大名誉教授ら出演者によるトークイベントが予定されている。各日の登壇予定者は上映館か映画の公式ウェブサイトで公開している。上映に関する問い合わせはエッセン・コミュニケーションズ(03・3523・0211)。【田村佳子】

==============

 ■人物略歴

 ◇まつい・ひさこ

 1946年生まれ。98年「ユキエ」で映画監督デビュー。「折り梅」「レオニー」など女性の人生を描く作品を手がけてきた
    −−「くらしナビ・ライフスタイル:女の我慢は社会の矛盾 日本のフェミニストを映画化」、『毎日新聞』2015年01月20日(火)付。

        • -

http://mainichi.jp/shimen/news/20150120ddm013040002000c.html


ドキュメンタリー映画 何を怖れる フェミニズムを生きた女たち

10

Resize0961