覚え書:「今週の本棚・この3冊:鶴見俊輔 正津勉・選」、『毎日新聞』2015年10月18日(日)付。
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今週の本棚・この3冊:鶴見俊輔 正津勉・選
毎日新聞 2015年10月18日 東京朝刊
◇正津勉(しょうづ・べん)・選
<2>アメノウズメ伝神話からのびてくる道(鶴見俊輔著/平凡社ライブラリー/864円)
<3>悼詞(とうし)(鶴見俊輔著/編集グループSURE/3564円)
鶴見俊輔氏が、この夏、七月二〇日に、亡くなられた。享年九三。鶴見さんは、小生の大学ゼミの教授であり、半世紀にわたり著作にふれてきた。そのなかから三冊とはむずかしい。できるならば一〇冊はあげたいが。しかたない、ここに出来(でき)の悪い生徒として、こたえたい。
<1>は、専門家の手により専門家に向けられる「純粋芸術」、専門家が発して大衆に楽しまれる「大衆芸術」、それと異にして、非専門的な芸術家と享受者により創られ引き継がれる「限界芸術」があると捉える。今回、あらためて読んで頷(うなず)いたのは、その具体例を示す表中「演じる→見る参加する」の項に「祭、葬式、見合、会議……」と順にあげて「墓まいり、デモ」と結ぶ箇所だ。折しも安保法制への反対デモが連日行われた。するとこの際の行動は若い世代による新しい形の限界芸術の表現と考えられよう。じつに、なんとも素晴らしい継承ではないか、これは。
<2>は、天の岩戸にこもったアマテラスを外に出すため、神々の前でセクシーに舞い狂ったアメノウズメ。権威を恐れず、異民族にもバリヤーなく、「美人ではないが魅力的」「世間体にとらわれない動きができる」「生命力にあふれている」「猥褻(わいせつ)を恐れない」踊りと裸で笑いを誘って、この世に光を呼び戻す。俊輔一代の女性賛歌!
この、女の力を、みよ。
<3>は、刊行時、八六歳、多くの人に出会ってこられ、多くの人を見送ってもきた、悼詞集成。半世紀余、捧(ささ)げてきたその数、一二五名。なんたる献身であろう。そうして見送られた方々の分野方面の遺業をみるにつけ、これこそ類例のない戦後の思想文化の紙碑となっている。主義を違(たが)え意見を異にしても、どれほどなりか故人の生き方、はては、死に様に心動かされるならば、立場を超え敬意を払うべきだ。これぞ鶴見さんの流儀である。悼詞、同時代を生きたという、第一義の証しなのだろう。九七歳で亡くなった哲学者バートランド・ラッセルについて。「彼がながいきして、しかも、もうろくしなかったことにおどろく」としてたたえる。それは彼が「自分よりも若い人びとの生きかたと仕事からまなぶことをやめなかったことから来たのだと思う」と。これはそのまま鶴見さんの信条でこそあった。こののちもずっと出来の悪い生徒は亡き先生の教えのもとにある。合掌。
−−「今週の本棚・この3冊:鶴見俊輔 正津勉・選」、『毎日新聞』2015年10月18日(日)付。
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http://mainichi.jp/shimen/news/20151018ddm015070037000c.html