覚え書:「今週の本棚・新刊・『増補版 ドキュメント死刑囚』=篠田博之・著」、『毎日新聞』2016年1月31日(日)付。

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今週の本棚・新刊
『増補版 ドキュメント死刑囚』=篠田博之・著

毎日新聞2016年1月31日 東京朝刊
 
 (ちくま文庫・972円)

 メディア批評の月刊誌『創』の編集長による死刑囚取材の集大成。2008年に出版した内容に、その後の取材成果を加筆した。取り上げたのは、連続幼女誘拐殺人事件の宮崎勤元死刑囚ら5人。いずれも社会を震撼(しんかん)させ、裁判で明らかにされた動機などから、世間の多くが「理解できない」と思うような人物ばかりだが、著者はそのほとんどと交流し、声に耳を傾けた。その記録だけでも貴重だが、事件の背景や死刑制度の限界まであぶり出そうと試みている。

 格差が進む近年では「生きていても仕方がない」と社会に絶望し、死を覚悟、あるいは死刑を望んで殺人を犯す者が目に付く。本書が取り上げ、死刑を執行された4人のうち、宮崎勤を除く3人に共通した点だ。

 死を望む者に死刑は犯罪の抑止力にならない、と著者は強調する。さらに4人に共通した家庭環境から、「社会のどこかが壊れ始め、家族が崩壊している現実を彼らは体現していた」と分析し、刑の執行だけでは「第二、第三の彼らが生まれるのを防止することにはならない」と指摘する。本書にある死刑囚を取材した実感を振り返れば、その指摘には強くうなずかざるを得ない。(慶)
    −−「今週の本棚・新刊・『増補版 ドキュメント死刑囚』=篠田博之・著」、『毎日新聞』2016年1月31日(日)付。

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