覚え書:「『戦争の世紀』研究 現代史と国際政治の視点から/13 国際社会主義運動 インターナショナル分裂」、『毎日新聞』2016年04月28日(木)付夕刊。

Resize2239

        • -

「戦争の世紀」研究
現代史と国際政治の視点から/13 国際社会主義運動 インターナショナル分裂

毎日新聞2016年4月28日 東京夕刊

「社会民主」と「共産」が対立 ファシズム台頭を防げず
 1920年代、「3大国際会議」の一つに数えられた、自由主義的、国際主義的な知識人、経済人の超国家的組織「太平洋問題調査会(IPR)」に対し、イデオロギーの異なる社会主義の側でも以前から国際主義的な運動が活発化していた。第一次世界大戦を契機に分裂した社会主義陣営の国際組織は相互に対立し、次第に混迷を深めてゆく。

 国際社会主義運動は19世紀に独仏英などで多様な発展を遂げ、帝国主義戦争に反対する政治運動として欧州全域で認知されたが、第一次大戦で深い傷を負った。西欧諸国では「祖国防衛」の要請に応じて政治休戦が決断され、多くの社会主義者、労働者が兵士として戦場に赴き、命を失った。それまでの国際運動を担った「第2インターナショナル」は大戦勃発と同時に瓦解(がかい)する。

 他方、帝政ロシアの崩壊に乗じたウラジーミル・レーニン(1870−1924年)率いる過激派ボリシェビキ(のちのロシア共産党)は17年11月、初の暴力的社会主義革命を成し遂げた。だが、欧州の戦後復興の進展に伴い、21年にはイタリア・ファシスト党が発足するなど過激な反革命勢力の攻勢も強まった。<干渉戦争とそれに続く資本主義諸国の反ソ政策という環境の中で、ソ連邦の指導者は被包囲意識を深め、その体制の軍事的性格を濃くした。ソ連邦国際連盟に加入を認められず、資本主義世界の中に孤島として存在していた>(斉藤孝『戦間期国際政治史』岩波全書)

 大戦終盤の18年、ドイツの革命運動は皇帝ヴィルヘルム2世の退位で終息し、社会民主連立政権が誕生した。しかし翌19年に入ると大衆革命を企図するドイツ共産党が組織される。レーニンはこの機をとらえ、モスクワで3月、急きょ「共産主義インターナショナル」(略称コミンテルン)の初回大会を開催した。

 これに先立つ2月、スイス・ベルンで社会民主主義政党の国際会議が開かれ、レーニンのプロレタリア独裁論に非難が集中した。以後、<ヨーロッパの社会主義運動は、レーニン主義に対する支持と反対とを標識として、共産党社会民主主義党とに大きく二分されることになった>(同)。

 20年代初頭のソ連は、深刻な飢饉(ききん)に直面していた。ジョージ・F・ケナンは著書『レーニン、スターリンと西方世界』(未来社)で<(ソ連は)経済再建のために西側諸国の援助を必要とした。そのうえ(中略)資本主義諸政府が団結して彼らに対抗してくることを非常に恐れた。(中略)形式上正常関係を結び、ロシアにおける一、二の利権で西側の資本家どもの貪欲を利用するのを最善の道とした>と指摘している。

 革命運動も並行して継続された。「世界革命」推進組織として発足したコミンテルンは、外交関係を結んだ相手国内でも革命運動を支援する役割を担った。ケナンは<ソビエトの政策の曖昧で矛盾した性格は、この時期に早くも確立された>(同)と述べている。

 24年にレーニンが死去すると、後継争いを制したヨシフ・スターリン(1878−1953年)が「世界革命」に代わる「一国社会主義」を提唱した。コミンテルンはこれに伴い、各国共産党ソ連外交を擁護するための組織に変容した。

 一方、西欧諸国中心の社会主義政党は23年5月、ドイツで「国際社会主義労働者大会」を開き「社会主義労働者インターナショナル」として再生に踏み出した。英労働党、独(統一)社会民主党フランス社会党に加え、かつての主流派、ロシア社会民主労働党(メンシェビキ)も参画した。

 二つのインターナショナルは<対立の日々を重ねていった。「共産主義インターナショナル」は、一九一四年八月(大戦勃発時)の「第二(インターナショナル)」の「裏切り」を忘れることができなかったし、「社会主義(労働者)インターナショナル」はさまざまな対立を経験しながら、けっきょく、ボリシェヴィキの「独裁」より「民主主義」に与(くみ)することで一致した>(西川正雄『社会主義インターナショナルの群像 1914−1923』岩波書店)。

 大恐慌直前の28年夏、穏健な中道社会主義に対するスターリンの根深い不信を反映し、コミンテルン第6回大会は「社会ファシズム論」を採用した。独共産党の標的は本質的に敵対すべきナチスではなく、政権を担う社会民主党に定められた。皮肉なことに<二つのインターナショナルが(中略)会談の席についたのは、一九三三年一月にヒトラーが政権を掌握するという、双方にとって深刻な事態が生じた後の、一九三四年一〇月一五日、ブリュッセルにおいてであった>(同)。【井上卓弥】=毎月1回掲載
    −−「『戦争の世紀』研究 現代史と国際政治の視点から/13 国際社会主義運動 インターナショナル分裂」、『毎日新聞』2016年04月28日(木)付夕刊。

        • -

http://mainichi.jp/articles/20160428/dde/014/010/012000c


Clipboard01


Resize1662


社会主義インターナショナルの群像 1914‐1923
西川 正雄
岩波書店
売り上げランキング: 812,061