覚え書:「ひもとく 電力自由化 公平で透明なルール作りを [文]安田陽(関西大学准教授=電力工学)」、『朝日新聞』2016年04月03日(日)付。

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ひもとく
電力自由化 公平で透明なルール作りを
[文]安田陽(関西大学准教授=電力工学)  [掲載]2016年04月03日

「おトクな電気」を勧める企業の担当者=3月25日

 今月、電力小売り全面自由化がスタートした。消費者に直接関係のある小売り部門の自由化だけに、CMなども「安くなる」「お得になる」「自由に選べる」といった言葉であふれている。しかし実は、これらは電力自由化の表層的な結果論にすぎない。
 これは、たとえて言うとスポーツの試合結果だけを見て一喜一憂するのに等しい。結果だけにこだわり過ぎると、手段を選ばなくなり、フェアプレーが損なわれかねない。電気もただ安ければよいのであれば、地球環境や子孫に配慮しない者が「勝ち」になってしまう。
 本当のファンならば、つぶさに試合を観戦し、プレーを時には称賛し、時には批判するのが正しい姿勢だろう。これと同様に、何のための電力自由化かをきちんと議論しないと、本質を見逃してしまいがちで、結果的に、消費者のためにならない可能性がある。
 ここでは、電力自由化に関して、ベクトルが異なる3冊をあえて取り上げる。いずれも「安くなる」「自由に選べる」といった表層を議論している本ではない。

■競争だけでなく
 高橋洋著『電力自由化』は、自由化以前のデメリットと自由化後に期待されるメリットを中心に議論している。通信やインターネットとの類似など、電力事業の構造改革の分析は明快でわかりやすい。半面、工学的な技術論ではないので、「電力の安定供給」を金科玉条とするインフラシステムの変更に慎重な人たちが十分納得するかどうかは、未知数である。
 一方、『まるわかり 電力システム改革キーワード360』は、電力技術や制度を辞書形式でわかりやすく網羅的に紹介している。同時に、供給力不足など、自由化によって起こり得るリスクについても言及している。ただ、惜しむらくは、本来、自由化と密接に関連する再生可能エネルギーや、それを受け入れるための電力技術について、最新の国際議論の知見が十分に反映されていない。これら最先端の情報が加われば議論がどう変化するか、想像しながら読むのも面白い。
 電力自由化発送電分離をめぐる議論は、とかく推進派・慎重派の二極化に陥りがちであるが、山田光著『発送電分離は切り札か』はそのような白黒論争を超えて、従来の論争の誤解を指摘している。市場メカニズムの活用は欠かせないが、競争至上主義ではなく、透明性と情報開示が必要だと説くのが、本書の要といえよう。
 この3冊は、異なる立場から異なる見解が論じられているが、共通する考え方や方法論も多い。例えば、市場メカニズムを通じて「公平性」や「透明性」を確保することは、主義主張が多少異なったとしても、共通のルールとして共有されている。

■未来を見据えて
 この「公平で透明なルール作り」こそが、実は自由化の最大の目的である。それは必ずしも直接的・短期的に消費者に「お得感」を与えるものではないかもしれない。しかし、健全な競争によってその業界が健全に成長することで、長い目で見ると最終的に消費者に恩恵をもたらすのである。重要なのは、自由化されたらどうなるかという受け身の姿勢ではなく、国民全体が「ルール作り」に関心をもち議論に参加することである。
 試合結果に一喜一憂するのでなく、ファンの厳しい目によってスポーツ界全体のレベルが上がるように、短期的な電気代だけでなく、地球の未来も見据えた本質的な議論をすること。今回の小売り全面自由化がもたらす最大のメリットは、まさにそこにある。ここで挙げた3冊が、議論への関心と参加の手がかりとなれば幸いである。
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やすだ・よう 67年生まれ。著書に『日本の知らない風力発電の実力』など。
    −−「ひもとく 電力自由化 公平で透明なルール作りを [文]安田陽(関西大学准教授=電力工学)」、『朝日新聞』2016年04月03日(日)付。

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http://book.asahi.com/reviews/column/2016040400001.html


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