覚え書:「売れてる本 プライベートバンカー―カネ守りと新富裕層 [著]清武英利 [文]瀧本哲史(京都大学客員准教授)」、『朝日新聞』2016年09月18日(日)付。

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売れてる本
プライベートバンカー―カネ守りと新富裕層 [著]清武英利
[文]瀧本哲史(京都大学客員准教授)  [掲載]2016年09月18日
 
■海外での節税、生臭く描く

 「格差社会」がキーワードの今、貧困リポートと同様に資産家関連のリポートも興味を集める。資産家と言っても、高年収とか派手な消費をするということではない。本当の資産家は文字通り資産運用で生活していて、つつましく、目立つことを好まないから、あまり一般人の目には届かないところにいる。本書はそうした資産家の実態を垣間見させてくれるノンフィクションである。
 節税を切り口として、日本からシンガポールに資産家を脱出させる日本人プライベートバンカーを軸に、最新シンガポール事情、資産家の生態、日本の税務当局の活動などを描く。この分野に関心がある者には旧聞に属するところも多いかもしれない。やや話を盛っているかなと思われる部分もあるが、実名を織り交ぜながらスピーディーに展開される。同じ著者の『しんがり』のような小説ではない。全体の筋はあるものの、小説的部分と淡々としたリポートが混在するオムニバス的な作りだ。
 現地の銀行の極端なノルマ主義と社内政治に翻弄(ほんろう)される日本人バンカー、節税上の理由でシンガポールに移住するもやることがなく退屈している資産家、まだ若く次の事業を模索する起業家、銀行の担当者に裏切られて資産を横領され、はてには殺されかけた資産家、こうしたシンガポールの状況を淡々と調査している日本の税務当局……。それぞれを主人公にして小説を書けそうな、強烈な個性を持つ人物が次々と出てくる。
 パナマ文書問題やグローバル企業の節税をきっかけに、オフショア(課税優遇地)金融への関心が高まっている。マクロ・社会的な視点の本でもなく、また、技術的専門書でもなく、かといって金融業者の営業目的の美辞麗句でまとめられた本でもなく、小説でもない。むしろ、市場からそのままぶつ切りの素材をもってきたような妙に生臭い作りは、シンガポールという舞台にとても合っていて、新しいジャンルを作ったと思う。
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 講談社・1728円=6刷3万5千部
 今年7月刊行。週刊誌連載をきっかけに、2年半の取材を経て出版された。「お金持ちの苦悩ぶりが読者にとって新鮮なのでは」と担当編集者。
    −−「売れてる本 プライベートバンカー―カネ守りと新富裕層 [著]清武英利 [文]瀧本哲史(京都大学客員准教授)」、『朝日新聞』2016年09月18日(日)付。

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http://book.asahi.com/reviews/column/2016091800002.html


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清武 英利
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