覚え書:「『共謀罪』何が問題?」、『朝日新聞』2017年05月31日(水)付。

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共謀罪」何が問題?
2017年5月31日


対象の法律と277罪

 犯罪を計画段階で処罰する「共謀罪」の趣旨を含む組織的犯罪処罰法改正案が、参院で審議入りした。成立を急ぐ政府・与党に対し、民進、共産などの野党は反発している。改めてどういう法案で、何が問題になっているのか。▼3面参照

 ■「共謀罪」法案とはどんな法律か

 277の犯罪について、複数の人が計画に合意して準備をすれば、警察が取り締まることができるようになる法律。これまでも、殺人、放火、爆発物の製造などといった凶悪犯罪は、相談したり、準備をしたりなどするだけで逮捕できた。

 「共謀罪」ができると、著作権法違反や特許法違反のような身体への被害を伴わない犯罪も含めて、警察が実行前に取り締まりをできるようになる。

 ■今のままでは不十分なのか

 政府は、「テロを防ぐため」に、今の法律では不十分だとして、国会の論戦の中でいくつかの事例を示している。

 そのうちの一つは、ある集団が、複数の飛行機を乗っ取って高層ビルに突撃させるテロを計画し、搭乗予定の航空券を予約したという事例。計画がわかっていても、航空券を予約する行為だけでは、現行法では犯罪にあたらず取り締まれない、としている。

 これに対し、野党側はハイジャック防止法の予備罪で取り締まれる、と反論。解釈はわかれた。

 ■一般の人への影響は

 法案には、対象は「テロリズム集団その他の組織的犯罪集団」と書かれている。政府は、世界各地で起きている「爆破テロ」や「自爆テロ」を計画するグループや暴力団、薬物密売組織を指す、と説明している。

 一方、法案の反対派は「組織的犯罪集団」かどうかを警察がどうやって判断するのかがわからない点を問題視する。

 ■普通の会社や労働組合、市民団体も「組織的犯罪集団」とされてしまう可能性はあるのか

 基本的には犯罪を目的としてつくられた組織を「組織的犯罪集団」としている。

 ただ、政府は国会で、正当な活動をしていた団体や会社も、性質が「一変」すれば適用対象となると説明。正当な目的で結成しても、あるときから犯罪を繰り返すようになれば、「組織的犯罪集団」と認定される可能性がある。

 一般市民に影響がある可能性が指摘されているのは、デモや座り込みなどに適用される「威力業務妨害罪」などだ。マンションの建設反対運動やストライキ、デモなどで、適用された事例がある。

 市民の抗議活動が役所や会社の仕事を「妨害した」とみなされれば、関わった集団が警察から「組織的犯罪集団」だと見られかねない、との指摘がある。

 ■「組織的犯罪集団」かどうかを警察はどのように調べるのか

 「共謀罪」では、グループの一人が自首して仲間の情報を伝えれば、刑が減免される規定がある。

 また、警察は「組織的犯罪集団」かどうかを見極めるために集団を監視する必要が生じる。国会答弁では犯罪捜査にかぎらず、警察の日常的な「調査」として、一般人を尾行する可能性を認めている。

 政府はメールやLINEのやりとりで犯罪の計画に「合意」したかどうかを判断する場合もあると説明。一方、通信傍受(盗聴)はしない、としてきた。ただ、捜査関係者には、実際に法を活用するには、通信傍受が必要だとする意見も多い。

 反対派は、法案ができれば国民への監視が横行する「監視社会」になってしまう、と主張している。

 ■改正案、準備段階で取り締まり

 今回の改正案は、「組織的犯罪集団」が犯罪を行う前に、計画に合意し(計画)、準備を行った(準備行為)段階で、取り締まれるようにする法律だ。

 日本の刑法で罰せられるのは、犯罪にあたる行為を実行し、結果が生じた「既遂」が原則だ。ただ、犯罪を実行したものの、結果が当初目的とした殺害や金銭の強奪までには至らなかった「未遂」も、多くの罪に設けられている。

 一方で国家を転覆させるような犯罪行為などには例外がある。準備段階で罪に問う「予備罪」が37種類、犯行に向けて話し合ったことを罰する「共謀罪」が13種類、設けられている。

 政府は改正目的について、2020年の東京五輪パラリンピックを見据え、187の国・地域が加わる国際組織犯罪防止条約に入るためと説明している。条約に加わる条件が、「4年以上の懲役・禁錮の刑を定める重大な犯罪に共謀罪を設けること」だったという。

 政府は当初、法律で「4年以上の懲役・禁錮」とする676種類の罪を対象にしようとした。ところが、与党内からも、多すぎるとの意見が出て再検討。公職選挙法政治資金規正法などは外され、91の法律にある277の罪が対象犯罪となった。その結果、一部の犯罪で予備罪より「共謀罪」の量刑が重くなる矛盾を指摘する声もある。(小松隆次郎、山本亮介)

 ■法案骨子

 ◆目的

 国際組織犯罪防止条約の実施

 ◆処罰する対象となる団体の定義

 テロリズム集団その他の組織的犯罪集団(犯罪の実行を共同の目的として結成されている団体)

 ◆処罰される行為

 組織的犯罪集団の活動として、対象となる犯罪を2人以上が計画。構成員の誰かが資金・物品の手配や場所の下見などの準備行為を実行

 ◆罰則

 対象犯罪のうち10年を超える懲役・禁錮の刑が定められているものは5年以下の懲役か禁錮。その他は2年以下の懲役か禁錮
    −−「『共謀罪』何が問題?」、『朝日新聞』2017年05月31日(水)付。

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http://www.asahi.com/articles/DA3S12964094.html


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