覚え書:「世界発2017 元ゲリラの再出発、キューバ手助け 医学生1000人受け入れ、コロンビアから」、『朝日新聞』2017年07月05日(水)付。

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世界発2017 元ゲリラの再出発、キューバ手助け 医学生1000人受け入れ、コロンビアから
2017年7月5日


FARC幹部のリカルド・テジェス氏=ハバナ、平山亜理撮影

 半世紀続いた内戦の末、6月27日に武装解除の終了を宣言した左翼ゲリラ、コロンビア革命軍(FARC)。今後の課題は元戦闘員をどう社会復帰させるかだ。「医療での国際貢献」が国是のキューバは、元戦闘員ら1千人を医学生として受け入れる意向を示した。(ハバナ=平山亜理)

 昨年11月。FARC幹部のリカルログイン前の続きド・テジェス氏(68)は、コロンビア北部カルタヘナでの会議後、キューバラウル・カストロ国家評議会議長から「1千人の医学生を受け入れたい」との申し出を受けた。

 キューバが学費や食費、滞在費を負担するというものだった。「キューバも経済的な余裕はないのに。寛大な申し出に、深く感謝する」とテジェス氏は語る。

 ラウル議長は当初、コロンビア政府側とFARC双方から、500人ずつ受け入れると提案した。だが政府側が辞退したため、1千人分の枠全てをFARCが譲り受けることになった。

 FARCは、新学期の始まる今年9月から5年間、毎年200人をハバナラテンアメリカ医科大学(ELAM)に送る。元戦闘員やその子どもだけでなく、過去にFARCが紛争時に殺害した民間人の遺族にも対象をひろげる。FARCとして、罪をあがなう意味もある。

 FARCの元戦闘員は農村出身者が大半で、中学も卒業していない人が多い。それでもテジェス氏は「彼らは勉強する機会がなかっただけだ。十分な能力と意欲がある」と期待する。

 今年はちょうど、キューバ革命を故フィデル・カストロ前議長らとともに率いたアルゼンチン人医師チェ・ゲバラの没後50年だ。「うれしい偶然だ。貧しい人たちを救うという理想は共通している」とテジェス氏は言う。

 アジア・アフリカ研究所(本部・東京)の研究所員で、キューバ情勢に詳しい新藤通弘氏は、今回の提案を「各国に医療支援を続けてきたキューバならではのユニークな対応だ」と評する。他国の紛争地を見ても、和平後にゲリラの元戦闘員が職に就けず、貧しさから麻薬取引などの犯罪に走る例もある。このため、こうした支援は重要だという。

 ■国内からは不満も

 自国の経済状況が苦しくても、ラテンアメリカやアフリカ諸国など発展途上国の国々に、医療や教育などの支援をするのが、キューバの理念だ。

 1959年の革命以降、各国から貧しい人々を、医学生として受け入れている。育成した医者の数は約4万9千人とされる。そのうち故フィデル・カストロ前議長が99年に創設したELAMでは、84カ国出身の約2万5千人が医者になったという。彼らは、自国の無医村地域などに戻って活動している。米国からも貧しい医学生145人を無料で受け入れてきたという。

 キューバ国民の中には、政府の方針を複雑な思いで眺めている人もいる。2015年の米国との国交回復後、外国人観光客は増えたものの、恩恵を受ける人は少なく、物不足は深刻で厳しい暮らしが続くからだ。

 ハバナ市内の男子医学生(19)は、「自分たちさえ、十分に学べる状況ではないのに、他の国の人々を受け入れる場合ではない」と話す。またハバナ市内の医者(48)は、自分の勤める病院の医療器具が不十分で、月給も約30ドルと安いと不満を漏らす。「格好つけて他国の人を助ける前に、自分たちの医療制度を整えるべきだ」

 それでもハバナ市の主婦マルタ・ボルヘスさん(63)は「FARCの元戦闘員たちを助けられて、キューバ人として誇りに思う」と話した。

 ■かつて密林で看護――「貧しい人救いたい」

 コロンビアの内戦で、キューバは長くFARCを支援した。FARCの元戦闘員カロリナ・ガルシアさん(35)は今、そのキューバで医学を学びたいと期待している。「医者に診てもらったことのない貧しい農村の人たちを救いたい」

 ガルシアさんは15歳でFARCに入った。密林の中で外科医のゲリラに指導を受けて、看護師として活動した。銃で撃たれた仲間の応急処置をしたり、デング熱など熱帯病の手当てをしたりした。

 外科医の助手として心臓やヘルニアの手術にも立ち会った。縫合の練習は、マットレスや食肉を縫い合わせた。

 熱帯の感染症を防ぐため、予防医療にも力を入れた。高血圧など生活習慣病になる戦闘員もいたため、野菜を多く食べるよう助言もしていたという。

 いま一番関心があるのは、精神的な病の治療だという。爆撃で仲間を失った戦闘員がうなされ、苦しむのを目の当たりにしてきた。「奨学金は、何よりの和平の手助けになる」
    −−「世界発2017 元ゲリラの再出発、キューバ手助け 医学生1000人受け入れ、コロンビアから」、『朝日新聞』2017年07月05日(水)付。

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http://www.asahi.com/articles/DA3S13019282.html

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