覚え書:「書評:女神信仰と日本神話 吉田敦彦 著」、『東京新聞』2018年01月28日(日)付。

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女神信仰と日本神話 吉田敦彦 著

2018年1月28日


◆共生する文化が形に
[評者]三浦佑之=古代文学研究者
 縄文時代にはじまり、弥生時代を経て古事記日本書紀の神話へと続く女神信仰を日本文化の本質として見いだし、そのあり方を平明に魅力的に説いたのが本書である。ちょうど、カムムスヒという出雲の御祖(みおや)(母神)について考えていたこともあって、共感しながら読んだ。

 たとえば、アマテラス大御神という女神を天上の最高神として位置づける日本の王権神話は、ギリシャ神話をはじめ、バビロニア・北欧・古代エジプトなど、男神を支配神として残忍な殺戮(さつりく)をくり返す他の王権神話とは違うとする。その理由として、女神信仰の深層心理には、対立があったとしても「一方が他方を排除したり抹殺したりせず(略)共存し共生することができる文化」があるからではないかと著者は言う。たまに、立ち止まって考えてみたい点はあるが、語り口調の文体がもたらす包容力とも相まって、著者の主張は受け入れやすい。

 ことにわたしが興味深かったのは、神話に出てくるオホゲツヒメやウケモチなどと重ねながら、子を孕(はら)み生みなそうとする地母神の形象として、縄文の土偶や土器を具体的に解読してみせる第一章である。土偶の取り扱われ方が縄文中期に急激に変化することと芋栽培の開始をかかわらせたり、顔面把手(とって)付き深鉢に妊娠した女神の姿を見いだしたり、読んでいてハッとさせられるところが多かった。

青土社・2160円)

<よしだ・あつひこ> 学習院大名誉教授。著書『日本神話の源流』など。

◆もう1冊
 松本直樹著『神話で読みとく古代日本』(ちくま新書)。古事記日本書紀風土記から精神史上の「日本」誕生を読む。
    −−「書評:女神信仰と日本神話 吉田敦彦 著」、『東京新聞』2018年01月28日(日)付。

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東京新聞:女神信仰と日本神話 吉田敦彦 著:Chunichi/Tokyo Bookweb(TOKYO Web)





女神信仰と日本神話
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