覚え書:「私の好きな文庫/新書 高い城の男 宮沢章夫さん」、『朝日新聞』2018年04月07日(土)付。

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私の好きな文庫/新書 高い城の男 宮沢章夫さん

私の好きな文庫/新書
高い城の男 宮沢章夫さん
2018年04月07日

みやざわ・あきお 56年生まれ。劇作家、演出家。劇団「遊園地再生事業団」主宰。著書に『牛への道』など

■80年代演劇に影響与えたSF
 アメリカのSF作家ディックの最高傑作だと思っています。もともと短編の名手で、やがて哲学性を深め、晩年はドラッグや精神世界に近づき、僕にはよく分からなくなっていくのですが、そのちょうどいい案配でうまれた気がします。
 第2次世界大戦の終わりが逆転したもう一つの世界の話。日本とドイツが勝ち、アメリカは分断。しかも、易経という占いが強い影響力を持っています。こんな世界観が非常に魅力的でした。ディックを知ったのは1982年公開の映画「ブレードランナー」。原作が彼で、一連の作品を読んだんです。
 生田萬(よろず)さんの「ブリキの自発団」や鴻上尚史さんの「第三舞台」、川村毅さんの「第三エロチカ」……。80年代の演劇はディックのようなSFの影響を感じます。幸福な時代だったはずなのに、絶望的な未来を想像していた。近代の演劇には、立ち方というか、自分たちの根拠というものが明確にあった。それが、ちょっと分からなくなったのが80年代。SFが描く平行世界は根拠を揺るがし、めまいのようなものを起こしたんです。
 僕はそのころ「ラジカル・ガジベリビンバ・システム」という笑いの集団をやっていました。まずコントをつくり、物語的につないでいく中で、やはり、そんなめまいのようなものを感じてもらいたいと考えていましたね。
(聞き手・星賀亨弘、写真・横関一浩)
    −−「私の好きな文庫/新書 高い城の男 宮沢章夫さん」、『朝日新聞』2018年04月07日(土)付。

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