覚え書:「憲法を考える 改憲するか、決めるのは国民 法律上の改正手続き…ケンポウさんに聞く」、『朝日新聞』2017年11月28日(火)付。


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憲法を考える 改憲するか、決めるのは国民 法律上の改正手続き…ケンポウさんに聞く
2017年11月28日

写真・図版
憲法改正の手続きは?

 ■憲法を考える 視点・論点・注目点

 政界では憲法改正をめぐる議論が激しくなっていますが、改憲案の是非を決めるのは国民投票です。国の設計図にあたる憲法を変えるかどうかを判断するわけですから、私たちの責任は重大です。そもそもこの手続き、どうなっているのでしょう。課題はないのでしょうか。日本国憲法を擬人化した当欄のキャラクター「ケンポウさん」と、今月も考えました。

 ■まず国会内に「わざと高いハードル」がある

 ――憲法改正にはまず、衆参両院の議員の3分の2以上の賛成が必要だなんて、ハードルが高すぎない? 安倍晋三首相も言っていたような気がするけれど。

 前回(10月31日付朝刊)も言いましたが、国を「建物」とするなら、私はその「設計図」で、中長期的な「国のかたち」を作るものです。設計図がコロコロ変わると、建物が不安定になって住みにくくなるって話、覚えていますか。あのですね、コロコロ変えられるのを防ぐため、わざと「3分の2」という高いハードルを作っているんです。憲法改正に特別な手続きを設けている国は決して珍しくありません。高いハードルがあることで、政治家の人たちが私を変えることに膨大なエネルギーをかけることなく、その分、目の前の様々な課題に取り組むことに専念できるんですよ。

 ――しかも、国民投票まである。

 そうですよ。大変なんです。そう簡単に変えられちゃ困りますからね……って、困るのは私じゃありませんよ。みなさんです。主権者である国民の意思を反映することが大切、ってことで、国民投票ができたんです。

 ――だけど、改憲勢力は「3分の2」のハードルを越えたし、国民投票をする時期が近いかもしれない。

 私は、みなさんに頼まれた、権力を縛る道具です。自衛隊を9条に明記するとか、参院選での合区を解消したいとか、あれこれ議論されているけれど、いつ、私をどんな形に変えるのか、最後は、みなさん一人ひとりの考えにかかっています。みなさんは主権者。だから、ひとつお願いしたいのは、落ち着いて、じっくり検討していただきたいということ。それができる環境を整えてもらって、私をどうするか、国民投票にかけてもらいたいです。

 ――自分の考えで投票すればいいんじゃないの?

 もちろんです。ただ、私を変えるとなると、初めての経験です。新聞もテレビも大騒ぎになるでしょう。改正案を提案した国会議員たちが私を変えるうえでの十分な根拠を示しているのか、私という設計図を変えることで国のかたちがどう変わるのか、ムードに流されず、考えてもらいたいんです。

 ■最後は国民投票 期間・しくみに不安や課題

 ――なんか「遺言」みたいで重いね。でも、憲法改正の手続きを定めた法律があるんでしょう。粛々とそれに従ってやればいいんじゃないの?

 甘いですね。「日本国憲法の改正手続に関する法律」(国民投票法)を読んでみて下さい。たとえば、改正案の提案(憲法改正の発議)から国民投票までの期間について書いてあります。この間に、国民それぞれが改正案にあるような憲法改正が必要か不要かを議論し、考えるわけですが、法律では国会が60日から180日までの間で決めることになっています。でも、十分でしょうか。国民投票法案が検討された当時、国民と政治家の双方に熟慮してもらうために2年以上の期間を置いてはどうか、と提案した憲法学者もいたほどです。再考が必要だと指摘する声はいまもあります。

 ――心配しすぎじゃないですか。もっと私たちを信用してほしいな。

 では、テレビCMの問題はどうですか? 国民投票法では、改憲案への賛否を呼びかけるCMの放送が投票の14日前から禁じられますが、それ以前は誰でも自由に流せるしくみになっています。無制限に認めれば、資金をもつ方が多く流すことができ、不公平になりかねません。自分の存在が、お金の力によって左右されるのかと思うと死んでも死に切れませんよ。ぐふぉぐふぉっ(せき込む)。

 ――小芝居はやめてください。それならば、CMを全面規制すればいい。

 そんなに単純ではありません。広告も表現の自由として保護されます。先日、法学者やジャーナリストらでつくる「国民投票のルール改善を考え求める会」が、日本民間放送連盟(民放連)に賛成・反対の立場で不公平が生じないような自主ルールを作ることを求めました。表現・報道の自由と一緒に、公平さを守れるしくみを作ってもらいたいですね。それに最低投票率の定めもありません。たとえば投票率が40%で、過半数の賛成で憲法改正が承認された場合、投票権を持つ人々のわずか2割の賛成で改正される。まがりなりにも私は最高法規。多くの皆さんに祝福され、立派に変えてもらいたいと考えちゃいけませんか? ぐふぉぐふぉ。

 ――手続き一つとっても、いろいろ面倒なことがあるんだね。

 確かに、憲法とは何かをまじめに考えるのは、大変な作業です。政党や衆参の憲法審査会を見ていると、私のどこをどういじるか、という改正ありきの自己目的化した議論が横行しています。だからこそ、面倒でも、何が議論されているのか、いまからウォッチしてほしい。そして、現在の国民投票のしくみで、本当に私のことをじっくり考え、選択することができるのか、考えてほしいです。

 (編集委員・豊秀一)

 

 ■(政党の議論から)自民 参院合区解消「最優先で」

 自民党は16日、憲法改正推進本部の全体会合を開き、参院選挙区の合区解消について議論した。国政選挙の実施方法は法律で定めるとした47条を改正して、参院議員を各都道府県から選出する方針を確認。これに関連して、地方自治体の組織・運営を定めた92条も改正する。

 この日示した案では、「(参院議員は)改選ごとに各広域的な地方公共団体の区域から少なくとも1人が選出されるよう定めなければならない」との文言を47条に追加。憲法に「都道府県」の規定がないことを踏まえ、92条に「基礎的な地方公共団体」(市町村)と「広域的な地方公共団体」(都道府県)で構成することを基本にするとの趣旨を付け加えた。

 この案に対して、会合では、参院議員を中心に「次の参院選に間に合うように最優先で頑張ってほしい」との賛同が相次いだ。改憲で合区解消をめざすことにほぼ異論は出ず、自民が衆院選の公約に掲げた改憲4項目の中では党内議論が最もまとまった形になった。

 この改正案では、都道府県を参院選挙区の基礎単位とすることになるが、「法の下の平等」を定めた14条に基づく投票価値の平等や、両院議員を「全国民の代表」と定めた43条と矛盾する可能性は考慮されていない。

 ■立憲・希望 9条めぐる問題点を共有

 衆院選民進党から分裂した立憲民主党希望の党はそれぞれ21、22日に相次いで党憲法調査会の初会合を開き、党内議論に着手した。

 憲法学者の長谷部恭男・早大教授を招いて、安倍晋三首相が唱える9条への自衛隊明記と安全保障法制の問題点を共有した立憲。会合では、枝野幸男代表が「立憲主義を取り戻すのが結党の大きな柱だ」と強調。憲法によって権力を縛るという「立憲主義」を強めることで、安倍晋三首相に対抗していく姿勢を打ち出した。

 今後、内閣による衆院解散権の制約や臨時国会の召集義務に期限を設ける改憲案の議論を進める考えで、年内に国会や党内議論に関する当面の対処方針をまとめるという。

 一方、衆院法制次長から国会議論の経緯を聴取した希望は、玉木雄一郎代表が初会合のあいさつで「与野党の議論を正しく引っ張っていく」との意気込みを語り、9条改憲の是非を含め議論を前進させる考えを示した。

 その後の議論では、日本のこころ代表だった中山恭子氏が「立憲主義というと、権力を縛るものというイメージで語られるが、多義的ではないのか」と指摘した。これに対して、9条改正に反対の立場の大串博志氏らが反論。「立憲主義についてきちんと議論する必要がある」などと求めた。

 玉木氏はこの日、9条について「自衛権の発動要件や行使の限界を議論する」よう党内に指示した。地方自治と合わせて当面のテーマにするという。

 (編集委員・国分高史、石松恒)

 

 ■(情報インデックス)辺野古を考えるシンポジウム

 シンポジウム「『辺野古が唯一の選択肢』に立ち向かう 安全保障・経済の観点から」(主催・新外交イニシアティブ)が12月11日午後7時30分から沖縄県名護市の名護市民会館大ホールで開かれる。午後6時45分開場、入場料500円。

 一般財団法人「沖縄観光コンベンションビューロー」の平良朝敬会長が「やんばるの魅力と観光」と題して基調報告。パネルディスカッションには、柳沢協二(元内閣官房副長官補)、屋良朝博(元沖縄タイムス論説委員)、半田滋(東京新聞論説兼編集委員)の各氏が登壇。新外交イニシアティブ事務局長の猿田佐世弁護士がコーディネーターを務める。

 参加申し込みは、以下のHPから。http://www.nd-initiative.org/event/4745/別ウインドウで開きます

 ■予告

 12月は休載し、年明けの1月30日付朝刊で再開する予定です。
    −−「憲法を考える 改憲するか、決めるのは国民 法律上の改正手続き…ケンポウさんに聞く」、『朝日新聞』2017年11月28日(火)付。

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(憲法を考える)改憲するか、決めるのは国民 法律上の改正手続き…ケンポウさんに聞く:朝日新聞デジタル