覚え書:「AI 人間を超える日は来るのか フェイスブック人工知能研究所開発責任者インタビュー」、『朝日新聞』2017年11月26日(日)付。


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AI
人間を超える日は来るのか フェイスブック人工知能研究所開発責任者インタビュー

2017年11月26日
フェイスブック人工知能研究所(ニューヨーク)でAI開発責任者を務めるアレクサンドル・ルブリュン氏=東京都港区で高山純二撮影

 米グーグル傘下のベンチャー企業が開発した囲碁AI(人工知能)「アルファ碁」は今年5月、世界最強とされる中国人棋士を3戦全勝で破り、世界に衝撃を与えた。SF小説やハリウッド映画のような、AIが人間を超える「シンギュラリティー」(技術的特異点)はもう間もなく到来するのか。フェイスブック人工知能研究所(パリ)でAI開発責任者を務めるアレクサンドル・ルブリュン氏にシンギュラリティーの可能性を聞いた。【高山純二/統合デジタル取材センター】

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 −−将来的にシンギュラリティーはあり得るのでしょうか?

 ◆個人的な考えを言えば、20〜30年後に起こることは、まずないでしょう。おそらく、その後も長い年月がかかるはずです。なぜならば、シンギュラリティーには「体」が必要になります。熱いや冷たいという感覚は体で覚えます。ネコに触り、引っかかれてネコの感覚を覚えて、ネコというコンセプトを理解するのです。これを覚え、理解しなければシンギュラリティーはあり得ないと考えています。

 −−将棋や囲碁で人間を上回るAIも登場しています。


フェイスブック人工知能研究所(ニューヨーク)でAI開発責任者を務めるアレクサンドル・ルブリュン氏=東京都港区で高山純二撮影
 ◆AIの処理能力を高めると、人間よりも賢いAIができると思っている人もいるでしょう。その考えは間違っています。車にエンジンをたくさん積んでも飛行機にはなりません。それと同じように、パソコンの能力を高めても人間より賢いAIになることはありません。将棋や囲碁は、一手一手の数が限られています。そして、勝ち負けの結果が分かり、何百万パターンのゲームを一度に行えますが、それを人間の人生に適用できるでしょうか? 人生の1秒間で直面する決断は何万ものパターンがあり、その結果の善しあしも分かりません。だからこそ、シンギュラリティーは難しいのです。

 −−今夏にはフェイスブックのチャットボット同士が、研究中に勝手に会話を始め、電源を遮断したと報道されました。

 ◆その研究に関係していたので、よく知っています。チャットボット同士にビジネスの交渉をさせようとしたところ、最初は英語を話していたが、だんだん英語以外の言語を話すようになり、内容を理解できなくなりました。会話の言語を英語に特定していなかったので、最適な言語に変更したのは驚くべきことではありませんでした。研究者にとっては興味深い内容でもなく、理解もできないため、電源を落としただけです。決してチャットボットが意思を持ったわけではなく、独自の目的を持ったわけではありません。研究目的の範囲内の出来事でした。

 −−マスコミが過剰反応したのでしょうか?

 ◆19世紀末に話題になったドイツの馬ハンスは「2+3は?」と聞かれると、足を5回踏み鳴らしました。しかし、ハンスは計算ができたのではなく、周囲の人の表情や反応を見て、足を踏み鳴らす回数を決めていたとされています。それが「計算のできる馬」として有名になりました。チャットボット同士の会話を巡る報道も同じです。AIが自身の意思を持つとか、感情を持つとか、多くの人が過剰反応していると思います。もちろん、シンギュラリティーが来ないとは言いません。ある日、突然訪れるかもしれませんが、体は必要です。体を構築し、感覚を学ばせるには長い時間がかかるでしょう。
    −−「AI 人間を超える日は来るのか フェイスブック人工知能研究所開発責任者インタビュー」、『朝日新聞』2017年11月26日(日)付。

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