覚え書:「特集ワイド 松田喬和のずばり聞きます 公明党・太田昭宏前代表 改憲、条文より「国の形」 議論はまだ初動段階」、『毎日新聞』2017年12月04日(月)付夕刊。


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特集ワイド
松田喬和のずばり聞きます 公明党太田昭宏前代表 改憲、条文より「国の形」 議論はまだ初動段階

毎日新聞2017年12月4日 東京夕刊

公明党太田昭宏衆議院議員=東京都千代田区で2017年11月28日、根岸基弘撮影

松田喬和・毎日新聞特別顧問=東京都千代田区で2017年11月28日、根岸基弘撮影
 野党の騒動の一方で、公明党の動向に注目が集まる。安倍晋三首相が進める憲法改正にどう対応するのか−−。政権内の「ブレーキ役」を自任する公明党だが、集団的自衛権の行使を認める安全保障関連法に賛成するなど、これまで自民党が打ち出した政策に同調してきた。自民党幹部に深い人脈を持つ前代表の太田昭宏衆院議員に、松田喬和・毎日新聞特別顧問が聞いた。【構成・葛西大博、写真・根岸基弘】

自衛隊明記の前に草案との整合性を
 −−毎日新聞の11月の全国世論調査では憲法改正について、国会が改憲案の発議を急ぐべきか尋ねたところ、「急ぐ必要はない」との回答が66%で、「急ぐべきだ」の24%を大幅に上回っています。改憲問題について公明党はどのような立ち位置にいるのでしょうか。

 太田氏 1990年代まで憲法論議は「改憲か護憲か」という両極の対立という時代が続きました。2000年から5年間、私は衆院憲法調査会の委員を務めました。この時の議論で、21世紀の日本の国の形をどうすべきかを考える中で、公明党は「加憲」という立場を打ち出したのです。憲法の3原理(国民主権基本的人権の尊重、平和主義)は堅持して、時代の進展とともに重要視されてきた環境権をはじめとした「新しい権利」などについて、憲法への明記が必要であれば付け加えて補強するという立場です。その考え方は今も全く変わっていません。

 −−同じ全国世論調査では、安倍首相自らが提案した憲法9条第1項(戦争放棄)と第2項(戦力不保持)はそのままにして、自衛隊の存在を明記するという改正案について、「賛成」や「反対」よりも「わからない」という回答が多かった。憲法を国民の身近なものにしていく努力が政党には不足しているという現実の表れだと思います。

 太田氏 私も全く同感で、憲法を身近なものにしていく努力は強化していかなければいけません。条文をどう変えるかという結論を急ぐ前に、この国の形をどうするかを考えることが先。国民主権を中心とした「国民憲法」を作り上げていくために、そこを活発に議論していくべきです。マスコミは衆院選で与党が(改憲の発議に必要な)3分の2を超える議席を取ったと盛んに報じています。また、憲法をテーマにした国会の議論はどうしても政局絡みになりがちです。

 そうではなく、これまでの憲法調査会憲法審査会などの経過も踏まえた重厚な議論が求められていますし、国民の間で憲法論議が盛り上がることが必要です。もう一度、国民の議論をどう進めるのかについては、政治家全員が意識して手を打たないといけません。

 −−公明党は、憲法論議をどのようにして国民に広げていこうとお考えですか。

 太田氏 今、自民党などが挙げている改憲テーマとしては、緊急事態への対応、教育の無償化、環境権、自衛隊の明記、あるいは選挙区の合区の解消などがあります。各党がまずやらなければならないのは、21世紀の日本の国の形という幅広い、深い次元からしっかり議論している姿を国民に見せること。安倍総裁が言ったから自衛隊を明記する改憲案にするのではなく、自民党には、今まで改憲草案として主張してきたものと、総裁が提起された案について、どう整合性をつけるのかを論議していただく。その議論や思考の過程を示した上で「ここに落ち着きました」という結果を見せてほしい。このような道筋を経た上で、国民が憲法を決めていくと考えるならば、今はまだ国民との温度差は大きい。初動段階ですね。

 −−10月の衆院選では、公明党は公示前から6議席減の29議席にとどまりました。強引なやり方で法案を成立させる安倍政権に同調していることで、公明党の支持層が離れたという見方があります。

 太田氏 これまでの選挙で取れた票は離れていません。ただ、選挙の総括で「こうすればよかった」と言う人は必ずいます。私も選挙区で大変苦労するのですが、与党対野党の構図で戦う小選挙区では、政党支持率4〜5%の公明党の候補者が勝つのは簡単なことではありません。今回の選挙は取るべき票を取れなかったのではなく、比例代表では短期決戦が響いたこと、小選挙区では立憲民主党に風が吹いたという事実が大きいのでしょう。

 −−選挙制度小選挙区制に変わった結果、自民党は執行部の力が強くなり、今は「安倍1強」の状態が続いています。自民党内の多様性が失われているだけに、連立与党を組む公明党にはブレーキ役が期待されてきましたが、最近は公明党の役割が明確になっていない気がします。

 太田氏 99年に自民党との連立政権を組む時に、公明党は「改革へのアクセル」と「金権腐敗へのブレーキ」とアピールしました。私もその言葉を作ったうちの一人です。

 64年の公明党の結党時を振り返れば「大衆福祉の公明党」を掲げていました。ただ、当時は教育や福祉の充実を主張しても「政治はもっと高尚なことを論じろ」と言われたものです。それが今では子育てや教育の支援、全世代型社会保障が政治のメインテーマになっています。これこそ「改革へのアクセル」の効果、公明党の存在感の結果だと思います。

 さらに、金権腐敗や、自民党の右傾化の動きにはこれまでもしっかりとブレーキをかけてきました。集団的自衛権の行使を巡っての平和安全法制でも、公明党が連立与党を組んでいたから、専守防衛自衛隊憲法の範囲内で果たす役割を明確にできたと思っています。

 −−公明党の言動をウオッチしていると、これまでの自民党内のリベラル派である旧田中派や旧大平派と近いように見えます。ずばり聞きますが、タカ派色が強いとされる清和会で活動してきた安倍首相とは視点が違いませんか?

 太田氏 私は安倍首相とお付き合いする中で、首相はリアリストであるとすごく感じます。非常に柔軟に、最後は落としどころを考えて政治をやっていると思います。一方、公明党はブレーキという役割をしっかり果たしていくことが本当に大事です。ブレーキが現実に利いていますから、自民党との関係性は熟練度を増しているのでしょう。

 ■人物略歴

おおた・あきひろ
 1945年、愛知県生まれ。京都大院修了。公明新聞記者を経て、93年衆院選で初当選。当選8回。党代表や国土交通相などを歴任。現在は党全国議員団会議議長を務める。=東京都千代田区永田町で
    −−「特集ワイド 松田喬和のずばり聞きます 公明党太田昭宏前代表 改憲、条文より「国の形」 議論はまだ初動段階」、『毎日新聞』2017年12月04日(月)付夕刊。

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