日記:物事をより多面的・長期的に理解するための弁証法


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 少し大げさな言い方になりますが、西欧では古代ギリシア以来、二つの対立する立場に分かれて問答しながら、お互いに相手の議論の曖昧なところ、捻れているところを指摘し、批判し合うことで、双方がそれぞれの考えを修正し、単なる思い込み(doxa:ドクサ)から、よく考え抜かれた知識(épistémè:エピステーメー)へと至る「弁証法」と呼ばれる方法の伝統があります。
 「弁証法」は英語で、ドイツ語でといいますが、元の意味は「対話(dialog)の術」ということです。自分の内に閉じこもってモノローグ(monolog)的に考えているといつのまにかヘンな思い込みにはまりがちですが、二人以上の人間が集まって「対話」することで、死角をなくしていこうとするわけです。
 高校の倫理の教科書にも出てくる一九世紀前半のドイツの哲学者ヘーゲル(一七七四〜一八三一)は、さまざまのレベルでの「弁証法」的なやりとりを通して、人類は次第に究極の真理に近づいていけると考えました。
 政治や法の正しいあり方、国家間の付き合い方のルール、各人が属する各種の共同体の運営の仕方、文化・芸術の理想、学問的な真理……等などをめぐって、私たちは絶えず討論し、場合によっては衝突しますが、ヘーゲルに言わせれば、そのような弁証法的な「対立」を通して、私たちは物事をより多面的・長期的に理解できるようになり、真理に近づいているのです。
    −−仲正昌樹『知識だけあるバカになるな! 何も信じられない世界で生き抜く方法』大和書房、2008年、79−80頁。

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