覚え書:「ニッポンの宿題 女性の進出、阻むもの 緒方夕佳さん、青野慶久さん」、『朝日新聞』2017年12月23日(土)付。


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ニッポンの宿題 女性の進出、阻むもの 緒方夕佳さん、青野慶久さん
2017年12月23日

写真・図版
男女平等の度合い

 「女性が輝く」――。安倍政権がこうした方針を掲げるなど歴代内閣は女性を後押ししようとしてきましたが、長年の課題の「待機児童問題の解消」すら達成できていない現実があります。女性の社会進出が進まず、女性リーダーも育たないのはなぜなのでしょうか。

 ■《なぜ》子連れに男性中心社会の壁 緒方夕佳さん(熊本市議)

 生後7カ月の長男を連れて先月、熊本市議会の本会議に出席しようとしましたが、認められませんでした。「傍聴人は議場に入れない」という規則があり、議員の子供も傍聴人とみなされたのです。開会を遅らせたとして文書で厳重注意されました。

 ある議員からは、「議会は神聖な場だ」と言われましたが、私は民主主義の場であり社会の縮図であるべきだと思います。でも熊本市議会は48人中女性が6人だけ。幼い子供を育てている女性議員は、私ひとりです。

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 私は米国の大学院を出て、イスラム圏であるイエメンの国連開発計画(UNDP)の事務所で3年半働いたあと、帰国しました。

 日本政府は「女性の活躍」を長く掲げてきましたが、日本では、子育てと仕事が両立できる環境が整っていないと痛感しています。私は、子育て世代の訴えを代弁しようと長男を本会議に連れていったのですが、今回の件では全国から賛否の電話やメール、手紙をたくさんもらいました。女性からは「子育てしながら働くのは本当に難しい。応援します」という声がある一方で、「私は職場に迷惑をかけずにやってきた。これだから女はだめだと言われ、迷惑だ」「わが社では即、クビです」という批判もありました。共通するのは、男性中心の制度に、女性が合わせようと苦労している姿です。

 今回の経験で感じたのは、男性は外で働き、女性は家事と子育てという強い役割分担意識が、日本で女性の活躍を阻んでいるという実態です。市議会で、男性の市職員の育児休暇取得を促すよう執行部に求めたことがあります。上司の一言で職員は休みを取りやすくなると思ったのですが、執行部は応じません。男性が育児休暇を取らないと、子育ては女性という意識が世の中に固定化します。男女とも子育てする人が増えれば、理解が深まり、両立がしやすい環境ができていくと思うのですが。

 子供の同伴は、欧州議会などでは認められています。私は市議会事務局にサポート態勢を相談し、授乳もあるので赤ちゃんと一緒に議会に出たい、と要望しました。しかしベビーシッターを個人で雇ってくださいと言われました。傍聴者も使える無料託児所をつくることも求めましたが、相手にされません。子育ては個人の問題だという意識がとても強いのです。

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 私は赤ちゃんとなるべく一緒にいて、母乳で育てたいと思っています。でも今の子育て施策は、女性が働きたいなら、ゼロ歳からでも託児所や保育園に預けるのが当然だという考え方です。子供を職場に連れてきてもいいし、在宅で仕事をしてもいい。企業でも役所でもそんな柔軟な働き方が認められるようにできないでしょうか。

 道のりは遠いですが、変化も起きています。熊本市議会で、県外視察に子供を連れていけるようになりました。実際の視察現場に連れて行くのは無理ですが、その間、子供はベビーシッターと一緒にホテルにいました。また本会議の審議中に一時、席を外し、控室で赤ちゃんへの授乳もできるようになりました。一歩一歩改善していけたらと思っています。

 ところで、私が滞在していたイエメンは、男女平等の度合いで、世界最下位の144位でした。でも数字から見えてこないこともあります。人々は仕事を早めに終わらせ、家族と過ごす時間を大切にする。出張先に家族を連れてくることもあります。イエメンに過労死という言葉はありません。

 一体何のために働いているのでしょうか。イエメンでも普通に行われている「家族と幸せに過ごす」という原点に返ることも、大事なのかもしれません。(聞き手・沢田紫門、桜井泉)

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 おがたゆうか 75年生まれ。2015年、熊本市議に無所属で初当選した。家族は夫と長女(4歳)、長男。

 ■《解く》「男女」飛び越え働き方模索 青野慶久さん(サイボウズ社長)

 「女性活躍」という言葉は好きじゃないんです。女性の中にも活躍したい人もいればしたくない人だっている。男性もそう。LGBTなどの性的少数者もいます。週1回働く人がいても、連日がつがつ働く人がいてもいい。一人ひとりが働き方を選べるようにし、個々を組み合わせることで、少子化や男女格差、イノベーションの欠如など、日本社会が直面する状況は、解決できると思います。

 かつてのサイボウズはIT業界に典型的なブラック企業でした。深夜も休日も会社に誰かがいる。離職率は年28%となり、採用や教育コストがかさんでいました。そこで社員一人ひとりに「困ったことは言って」と耳を傾けた。働き方改革は社員のためというより経営戦略上、合理的だったのです。

 若い会社なので、結婚や出産を控えている女性が多く、育児と仕事を両立したいという要望がとても多かった。そこで介護・育児休暇を最長6年まで取れるようにしました。休暇中は給料を出すわけではないし、いつでも戻ってきていいよ、ということです。

 子連れ出勤や在宅勤務も認めました。子供が病気で、預ける場所がないことは誰にだってある。休まれるよりも子連れで働いてもらったほうがいいじゃないですか。私も子連れ出勤しています。

 岡山の実家で介護をしながら、在宅で仕事し、週1日大阪オフィスに出勤している女性社員もいます。副業もOKなので、地元のプログラミング教育の会社を手伝い、そこでうちのソフトを使ってくれる、という相乗効果もある。

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 多様な働き方を実現するときにぶつかる壁が給与の見直しです。経営者としては大変ですが、本人のスキル、実績、年齢、勤務時間を総合判断し、転職市場の相場とも連動させながら給与額を提示しています。今、離職率は4%。女性は全体の4割で、短時間勤務の女性管理職もいます。

 私自身、3度育児休暇を取ったことも改心のきっかけになりました。もともとは仕事大好き人間でした。育児の合間にスマホで目いっぱい仕事をしようと思っていたのに、とてもできない。子供はちょっと目を離したら、死んでしまうかもしれないと分かった。仕事よりも育児の方が圧倒的に大事だと気づきました。女性一人に任せることじゃないなと思いました。

 経済界にいる多くの人は、かつての私も含め、育児の大切さに気づいていません。だから少子化問題が解決されない。実は子育ては、次世代の働き手と消費者の両方を育てています。商売人なら、未来の市場を作る子育てが、最優先であることに気づくべきです。それに、一律で公平な従来のような働き方では、もはやイノベーションも生まれません。一人でも多く人材を集め、組み合わせた方が大きな成果が出せる。

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 欧米に比べて日本に女性のリーダーが少ないのはなぜか、ですか? そう男女の枠でとらえることが間違っています。欧米では、女性管理職の割合を「何%にする」とやってきましたが、それをまねるのではなく、ジャンプしたほうが早い。つまり、男性、女性というのを一回忘れ、個々を見る。個人の働き方に合わせ、短時間勤務でも適材適所で管理職にする。

 実は、デンマークスウェーデンといった女性進出の先進国のメディアが私に取材に来ます。国をあげて女性を公務員にして社会進出を実現しているけど、民間企業で働く女性がなかなか増えないのだそうです。あなたの企業は女性が大勢働いていてすごいね、と。男女の区別を考えず、個々の柔軟な働き方を認める。そう飛び越えることで、スウェーデンを抜くチャンスが僕らにやってくると思います。(聞き手・三輪さち子)

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 あおのよしひさ 71年生まれ。パナソニックを経て、97年ソフトウェア開発会社を設立。選択的夫婦別姓容認を求める提訴を予定。
    −−「ニッポンの宿題 女性の進出、阻むもの 緒方夕佳さん、青野慶久さん」、『朝日新聞』2017年12月23日(土)付。

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(ニッポンの宿題)女性の進出、阻むもの 緒方夕佳さん、青野慶久さん:朝日新聞デジタル