覚え書:「くらしの明日 私の社会保障論 『かかりつけ医』を一歩に」、『毎日新聞』2014年07月23日(水)付。

1



        • -

くらしの明日
私の社会保障
「かかりつけ医」を一歩に
「病院頼み」からの脱却目指し
宮武剛 目白大大学院客員教授

 かつて開業医の往診カバンには「200票入っている」と言われた。往診で地域を歩き、生活相談にも応じた町医者への信頼が集票力につながった。
 70年代に入ると、往診料の切り下げや検査機器の高度化で、開業医は診療所で患者を待ち始め、病院志向が加速加速していく。77年には病院での死亡数が自宅でのみとり数を上回った。
 その後も病院頼みは強まるばかりで、今や「病院死」は死亡総数の76・2%を占め「自宅死」はわずか12・5%(11年)。しかもグループホームやサービス付き高齢者住宅での死亡も自宅扱い。他の死亡墓所は有床診療所、各種老人ホーム等である。
 地域差はある。自宅死割合の1位は奈良県の17・2%▽2位東京都」16・1%▽3位兵庫県15・7%▽4位大阪府15・0%▽5位滋賀県14・9%−−。
 ここ5、6年、大都市部での自宅死割合が急上昇した。人口密集地の病院群は収容の限界に近づいているからだろう。自宅での「孤独死」も目立つ。同時に一部の診療所や訪問看護が都市部を中心にみとりに取り組む反映でもある。
 最下位は佐賀県の8・0%、次いで大分県8・2%、北海道と宮崎県の8・7%。親族や地域のつながりが強いはずの地方で自宅死は急減しつつある。
 超高齢社会は要介護者と死亡者数の急増をもたらし、病院だけではとうてい受け止められない。いったい在宅医療をどう立て直すのか。
 近年は「在宅療養支援診療所」と名付ける「かかりつけ医」が設けられた。日常の法門診療と緊急時の往診を引き受け、24時間対応が義務付けられる。代わりに高額の報酬を得られる。
 今春の診療報酬改定でも、高血圧症、糖尿病、脂質異常症認知症のうち二つ以上を抱える患者の主治医になると、月額1万5030円の診療・指導料が新設された(薬や高価な検査料は別料金)。もちろん条件は厳しい。(1)在宅療養支援診療所である(2)介護保険の主治医意見書の作成や相談に応じる(3)常勤医3人以上など。条件をすぐに満たせる診療所はわずかだが、在宅医療の主役を育てる狙いだ。
 自宅診療等を支える訪問看護ステーションも、看護師常勤7人以上でみとり数が多いと、報酬が大幅に引き上げられた。
 現状でも主要な先進国で人口当たりの病床数は最も多い。''世界一の病院頼み"から抜け出し、地域で支え、みとる体制を整えるほかない。
 「地域医療・介護確保法」(6月成立)は、地域包括ケア体制、つまり地域ぐるみの支え合いで超高齢化を乗り切ろうとしている。その第一歩は、より多くの人々がかかりつけの医師や看護師を持つことから始まる。
在宅療養支援診療所 06年の診療報酬改定で、高齢者が地域で療養しながら暮らすために創設された。他の診療所との連携も含め24時間往診可能、訪問看護や介護サービスとの連携、緊急入院先の確保等が要件にされる。全国の診療所の1割強のあたる1万3758診療所が届け出(12年7月時点)。
    −−「くらしの明日 私の社会保障論 『かかりつけ医』を一歩に」、『毎日新聞』2014年07月23日(水)付。

        • -

 


 




20140723_wed


Resize1685

覚え書:「SFを実現する 3Dプリンタの想像力 [著]田中浩也 [評者]佐倉統(東京大学教授・科学技術社会論)」、『朝日新聞』2014年07月20日(日)付。


2


        • -

 
SFを実現する 3Dプリンタの想像力 [著]田中浩也
[評者]佐倉統(東京大学教授・科学技術社会論)  [掲載]2014年07月20日   [ジャンル]科学・生物 社会 

■社会の凝りや澱がほぐされる

 タイトルの「SF」は、通常の「サイエンス・フィクション」に、「ソーシャル・ファブリケーション」という新しい意味がかけられている。社会を組み換える、鋳掛け直す、というニュアンスである。
 3Dプリンターの出現は、情報だけでなく、モノの遠距離伝送も可能にした。設計情報を送って、向こうでそれを打ち出せばよいのだ。
 そうすると、送られてきた情報をそのまま使うのではなく、地域や状況に合わせて修正し、使いこなしていく作業が自然に始まる。今までにはなかった人と人のつながりが出てくる。その社会に溜(た)まっている「凝り」や「澱(おり)」が、少しずつほぐされていく。これが、著者の目指す「SF」。この本には、そんな実例が、たくさん紹介されている。
 新技術の負の側面についても触れた方が、読者はより身近な出来事として受けとめやすかったかもしれない。
 読み終わったとき、未来は明るいと確信できて、前向きな気持ちになれる本だ。
    ◇
 講談社現代新書・907円
    −−「SFを実現する 3Dプリンタの想像力 [著]田中浩也 [評者]佐倉統(東京大学教授・科学技術社会論)」、『朝日新聞』2014年07月20日(日)付。

        • -




社会の凝りや澱がほぐされる|好書好日





Resize1686


覚え書:「音楽の進化史 [著]ハワード・グッドール [評者]島田雅彦(作家・法政大学教授)」、『朝日新聞』2014年07月20日(日)付。


3

        • -

音楽の進化史 [著]ハワード・グッドール
[評者]島田雅彦(作家・法政大学教授)  [掲載]2014年07月20日   [ジャンル]歴史 人文 

■洗練への過程、謎解きの面白さ

 古代の骨笛からボーカロイドまで、洞窟での宗教儀礼からiTunesまで、偶然の発見や複雑な体系化を経て、音楽は紆余曲折(うよきょくせつ)の進化の道筋を辿(たど)ってきた。私たちは現在、壮大な音楽アーカイブを私有し、時と場所を選ばず、あらゆる時代と地域の音楽を聞くことができるし、どんな風変わりな音楽にも耐えられる耳を獲得したが、どのような経緯と理由によって、この音楽の多様性に行き着いたかほとんど何も知らない。
 音楽にまつわる歴史的因果を解き明かす本はこれまでありそうでなかった。本書は主に西洋音楽の音階や和声、リズムやジャンルがどのようにして発見され、洗練されてきたかをなぞってみせる。
 ヴェネチアサンマルコ広場の素晴らしい音響効果がオペラやブラスバンドの揺り籠になったこと、1オクターブが12音で構成される背景、対位法芸術の極致ともいうべきバッハの楽曲の秘密などが謎解きされてゆく過程は凡百のミステリーを凌(しの)ぐ面白さだ。
    ◇
 夏目大訳、河出書房新社・3456円
    −−「音楽の進化史 [著]ハワード・グッドール [評者]島田雅彦(作家・法政大学教授)」、『朝日新聞』2014年07月20日(日)付。

        • -




洗練への過程、謎解きの面白さ|好書好日





Resize1687



音楽の進化史
音楽の進化史
posted with amazlet at 14.07.27
ハワード グッドール
河出書房新社
売り上げランキング: 3,188

覚え書:「ミッション・トゥ・マーズ 火星移住大作戦 [著]バズ・オルドリン」、『朝日新聞』2014年07月20日(日)付。


4

        • -

ミッション・トゥ・マーズ 火星移住大作戦 [著]バズ・オルドリン
[掲載]2014年07月20日   [ジャンル]科学・生物 

 著者は1969年7月20日(日本時間21日)、アポロ11号でアームストロング船長と共に人類で初めて月面着陸した宇宙飛行士。NASAを引退後も有人宇宙探査の分野で積極的に活動しており、2035年までに人間を火星に着陸させる計画を提唱する。その壮大な火星入植計画の全容が、1930年生まれとは思えないエネルギッシュな文章でつづられている。
 著者は地球と火星の間を、推進剤をあまり使わずに往復して人と物資を運ぶ火星循環航路を構想している。主な動力源は太陽光発電。地球から火星まで6カ月以内で到達し、火星からの帰還には20カ月かかるという。『火星年代記』の時代が来るのか。
    ◇
 (吉田三知世訳、エクスナレッジ・2376円)
    −−「ミッション・トゥ・マーズ 火星移住大作戦 [著]バズ・オルドリン」、『朝日新聞』2014年07月20日(日)付。

        • -


壮大な人殖計画の全容|好書好日





Resize1688




ミッション・トゥ・マーズ 火星移住大作戦
バズ・オルドリン
エクスナレッジ
売り上げランキング: 64,118