2011-08-01から1ヶ月間の記事一覧

「今週の本棚:富山太佳夫評 『道徳・政治・文学論集』『秘義なきキリスト教』」、『毎日新聞』2011年8月28日(日)付。

- 今週の本棚: 富山太佳夫評 『道徳・政治・文学論集』ヒューム著、田中敏弘訳(名古屋大学出版会、8400円) 『秘義なきキリスト教』トーランド著、三井礼子訳(法政大学出版局、5040円)啓蒙的合理主義とは違うもうひとつの世界 ともかく暑い。ま…

単純で、善良で、物静かで、落着きあり、教養ある−−それからその生活ぶりにおいてもまた考え方においても少しく『古風』な人

- 私の最も好きななのはいかなる種類の人であるか。 既に述べた通り、それは単純で、善良で、物静かで、落着きあり、教養ある−−それからその生活ぶりにおいてもまた考え方においても少しく『古風』な人である。落着きなき、気の変わりやすい、操人形のような…

日本人の精神ならびに性格を甚だしく醜くするところの傷所

- 日本人の精神ならびに性格を甚だしく醜くするところの傷所は−−遺憾ながら私はこの場合私の学生を全く除外するわけには行かない−−虚栄心と、自己認識の欠乏と、および批評的能力の更にそれ以上に欠如せることである。これらの悪性の精神的ならびに道義的欠…

覚え書:「今週の本棚:『諸君!』『正論』の研究 保守言論はどう変容してきたか 上丸洋一著(岩波書店・2940円)」『毎日新聞』2011年8月28日(日)付

- 「今週の本棚:『諸君!』『正論』の研究 保守言論はどう変容してきたか 上丸洋一著(岩波書店・2940円)」 二つのオピニオン誌を軸に、戦後の言論、思想状況の一断面を明らかにした労作だ。著者いわく「保守」は日本の戦争を侵略とみるか、自衛とみるかに…

一七四九年八月二十八日の正午、十二時を知らせる鐘の音とともに、フランクルフト・アム・マインで私はこの世に生をうけた

- 一七四九年八月二十八日の正午、十二時を知らせる鐘の音とともに、フランクルフト・アム・マインで私はこの世に生をうけた。星位には恵まれていた。太陽は処女宮の座に位置し、その日の頂点に達していた。木星と金星は好意の眼差しをもって太陽をながめ、…

政治上の目的の為に学問が作られるのでなく、学問はいつでも批判的指導的立場に立つものでなければならない

- 政治上の目的の為に学問が作られるのでなく、学問はいつでも批判的指導的立場に立つものでなければならない。而して学問がそういう役目を果たすには、学問というものは何処までも客観的ということを理想とせねばならない、何処までも深い広い理論的基礎の…

あなたならどうする?

数日前に関西学院の金明秀先生がtweetで紹介していたので、ひとつまとめて掲載しておきます。「あなたらならどうする? 〜人種差別・不動産屋編〜 (字幕つき)」 「あなたならどうする?〜人種差別の実験〜(字幕付き)」 「あなたならどうする? 〜スーパ…

教養とは何か? 教養の目的は?

- 教養とは何か? 教養の目的は? 彼の最も高貴な同時代人たちを理解し助成すること。 生成しつつある、やがて来たらんとする人々を準備すること。 教養は、陶冶されるべきものにのみ関係し得るのであり、叡智的性格には関係し得ない。 教養の課題。彼の民族…

一言で言えば、−−私の意志の根本的改善によってのみ私の現存在と私の使命の上に新しい光が射す

- 一言で言えば、−−私の意志の根本的改善によってのみ私の現存在と私の使命の上に新しい光が射す。この改善なしには、私がたといどんなに省察しても、また優れた精神的賜物を授けられていても、私のうちにも私の周りにもただ暗黒が存在するだけである。心の…

覚え書;「異論反論 民主党代表選で次期首相が決まります 『12年問題』対応できる人を 寄稿=佐藤優」、『毎日新聞』2012年8月24日(水)付

- 「異論反論 民主党代表選で次期首相が決まります 『12年問題』対応できる人を 寄稿=佐藤優」 29日に民主党代表選挙が行われる。ここで選出された新代表が次期首相になる。筆者が望むのは、2012年問題に対応できる首相が誕生することだ。 来る12年には、日…

いよいよ「秋味」(麒麟)の季節の到来ですw

- 晴れた秋の朝の、朝日のさしているさわやかな豊穣な田園、見渡すかぎりすみずみまで耕され、まだ青々としている。玉蜀黍の畠、稲田、われわれの国の辻講演のほとりでよく見かける大きな装飾的な葉をした里芋の畠。これらの野良には、働いているたくさんの…

日本国の天職如何、地理学は答へて曰く、彼女は東西両洋の媒介者なりと

- 日本国の天職如何、地理学は答へて曰く、彼女は東西両洋の媒介者なりと、勿言(いふなかれ)、何ぞ簡短の甚しきやと、是れ一大国民たるに恥ずべからざる天職なればなり、是れ希臘国の天職たりしなり、是れ英国の天職にして彼女の強大なるは彼女が能く其天…

自己は自分の帰趨(よるべ)である。ゆえに自分をととのえよ。

- みずから自分を励ませ。みずから自分を反省せよ。修行僧よ。自己を護り、正しい念(おも)いをたもてば、汝は安楽に住するであろう。じつに自己は自分の主である。自己は自分の帰趨(よるべ)である。ゆえに自分をととのえよ。−−商人が良い馬を調教するよ…

覚え書:「今週の本棚:沼野充義・評 『困ってるひと』=大野更紗・著」、『毎日新聞』2011年8月21日(日)付

- 今週の本棚:沼野充義・評 『困ってるひと』=大野更紗・著 (ポプラ社・1470円) ◇「難病女子」の闘いに前向きパワーをもらう 絶妙のタイトルに惹(ひ)かれた。「困ってるひと」って、誰のことだろう? 著者はまだ二十代半ばの若い女性。「闘病記」…

universalとpersonal

- そこで、あなた方でする仕事というものを見ると、普遍的即ちuniversalの性質を持っている。私どもの方はuniversalではなくてpersonalの性質を持っています。なお敷衍していえば、あなた方はまず公式を頭の中に入れて、そのapplicationが必要であるそれは人…

その非人間的なものにしても、やはり人間からわれわれに到来したものなのだ

- 十数世紀のあいだ、われわれは人間的なものと格闘している。たしかにこれらの世紀は非人間的なものにかくも溢れかえっているが、その非人間的なものにしても、やはり人間からわれわれに到来したものなのだ。 −−エマニュエル・レヴィナス(合田正人・谷口博…

哲学は専門分科の学ではなくして、あらゆる分科に亙っての普遍的な認識の学である

- しかしそれでも魚住君は、自分が何故こんな苦労をしてまで哲学科へ入ろうとするかについて、熱心に語ることをやめはしなかった。自分を衝き動かしているのは人生問題である。人生の意義を知ることが自分にとっての学問の目標である。とすれば自分は哲学を…

原始時代からホンの近代に至るまでの、ほとんど唯一の大道徳律としての奴隷根性

- 僕は余りに馬鹿々々しい事実を列挙して来た。今時こんな事を言って、何のためになるのかと思われるような、ベラボーな事実を列挙して来た。けれどもなお僕に一言の結論を許して戴きたい。 主人に喜ばれる、主人に盲従する、主人を崇拝する。これが全社会組…

覚え書:「今週の本棚:山崎正和・評 『原発報道とメディア』=武田徹・著」、『毎日新聞』2011年8月14日(日)付

- 今週の本棚:山崎正和・評 『原発報道とメディア』=武田徹・著 (講談社現代新書・798円) ◇報道の公共性と倫理への呼びかけ 福島の第一原子力発電所は、旧式の原子炉を温存し、狭い場所に密集して建て並べていた。これが津波による被害を大きくしたの…

詩人の芸術は、われわれの個性をよりよく悟らせ、われわれの視界を自己の心情体験を超えた広さに拡大する媒介となる

- 抒情詩人は、平生は外的目的に攪乱されたり日常的騒音に被われたりしている、心の内のしずかな推移を、心耳に聞きとり、これを捉えて意識にまでとりあげる能力が恵まれている。詩人はわれわれの心の内に、かつてわれわれの心の内に存した一連の内的生活を…

懐疑とは戦士のような心のことであって、掏摸のような心のことではない

- 人々はしばしば次のように語る、懐疑は疲れ、傷つき、病める心のことであって、健康で活動する心の知らないことであると。私は彼らがこの言葉によって何を意味しようとしておるかを認識し、また彼らの意味することが事実であることを承認することを惜しま…

「一生に一度は」自分自身へと立ち帰り、自分にとってこれまでは正しいと思われて来たすべての学問を転覆させ、それを新たに建て直すよう試みるのでなければならない

- 第一に、真剣に哲学者になろうとする人は誰でも、「一生に一度は」自分自身へと立ち帰り、自分にとってこれまでは正しいと思われて来たすべての学問を転覆させ、それを新たに建て直すよう試みるのでなければならない。哲学ないし知恵とは、哲学する者の一…

私は人間という言葉を耳にすると、まるで生まれる時から特に自分と親密だった仲間の所へ行くみたいにすぐそちらの方に駆けつけるのですよ

- 私は人間という言葉を耳にすると、まるで生まれる時から特に自分と親密だった仲間の所へ行くみたいにすぐそちらの方に駆けつけるのですよ。あそこに行けば幸いに安らぎの場が得られるものと信じているからです。 −−エラスムス(箕輪三郎訳)『平和の訴え』…

西田幾多郎の読書論、「多くの可能の中から或一つの方向を定めた人の書物から、他にこういう行方もあったということ」の探究

- 何人もいうことであり、いうまでもないことと思うが、私は一時代を画したような偉大な思想家、大きな思想の流の淵源となったような人の書いたものを読むべきだと思う。かかる思想家の思想が掴まるれば、その流派というようなものは、恰も蔓をたぐるように…

「正しきをおこない、なにびとをも恐れるな」ということわざだけでは、この世を渡ることはできない

- 八月十日 「正しきをおこない、なにびとをも恐れるな」ということわざだけでは、この世を渡ることはできない。まず、だれも全く正しいおこないはできないし、その意味ですでに前提が欠けている。次に、なにびとも、たとえ最も身分の高い人でも、他人の奉仕…

夏の下町の風情は大川から、夕風が上潮と一緒に押上げてくる

- 夏の下町の風情は大川から、夕風が上潮と一緒に押上げてくる。洗髪、素足、盆提灯、涼台、桜湯−−お邸方や大店の歴々には味えない待ちつづきの、星空の下での懇親会だ。湯屋より、もちっとのびのびした自由の天地だ。 −−長谷川時雨『旧聞日本橋』岩波文庫、…

科学高等教育機関としての大学

- 大学における科学は、たまたま特別な才能に恵まれればできるとか、変転きわまりない経済的、社会的、政治的な諸条件が幸いにも適切であればやれるというものではない。むしろ科学は、大学において〈長い年月をかけて打ち立てられる〉ものである。大学は、…

ただ私は、原始的なものへのノスタルジーなど全然持ちあわせておりません

- −−私たちは、映像、音響、スペクタクルの社会のなかで生きています。この世界では、退いて反省するための場所はわずかしかありません。もしこのような発展がさらに速度を増せば、私たちの社会はその人間性を損失することになるのでしょうか。 もちろんその…

原水爆がもたらす黙示録的な危険は、ある完結された行為によって、永遠に除去される性質のものではない

- 原水爆がもたらす黙示録的な危険は、ある完結された行為によって、永遠に除去される性質のものではない。そうではなくて、毎日毎日、行為をくりかえしてゆくことによってのみ、それは可能なのである。このことは、つまり、こういう意味である。現在存在す…

観念や理想の力や光は、その本当の強さを保つためには、自分で一字々々、一行々々ずつ書いて来た文字そのものから放たれるものでなければならない。

- 人生とは何ぞやという事は、かつて哲学史上の主題であった。そしてそれに対する種々の解答が、いわゆる大哲学者らによって提出された。しかし、人生は決して、あらかじめ定められた、すなわちちゃんと出来上がった一冊の本ではない。各人がそこへ一字々々…