2012-05-01から1ヶ月間の記事一覧

覚え書:「今週の本棚:藤森照信・評 『股間若衆』=木下直之・著」、『毎日新聞』2012年05月27日(日)付。

- 今週の本棚:藤森照信・評 『股間若衆』=木下直之・著 (新潮社・1890円) ◇男性裸体彫刻「受難の歴史」を探訪する まず写真(右ページ)を見て頂きたい。今から104年前、明治41年の秋、上野で開かれた第2回文部省美術展覧会(文展、現日展)に…

自立・自律の思索と参加を根こぎにする「ウチとソト」という曖昧さと退行、「滅私奉公」と「マイホーム主義」の併存という撤退の問題。

- 丸山 東洋対西洋とか、日本対外国という発想はわたしはきらいです。とくに、何かというと、日本ではこうだけれど、「外国では」こうだという言いかたがはやるのは、日本の空間的地位と文化接触の昔からかたちとに制約されている、それこそ日本的な発想です…

覚え書:「今週の本棚:本村凌二・評 『哲学大図鑑』=ウィル・バッキンガムほか著」、『毎日新聞』2012年05月27日(日)付。

- 今週の本棚:本村凌二・評 『哲学大図鑑』=ウィル・バッキンガムほか著 (三省堂・3990円) ◇きわめつきの精神活動を最大限わかりやすく ある高名な哲学者と経済学者が散策しながら語り合っていた。哲学者は「経済学とはとどのつまり最小限の努力で最…

書評:川島慶子『マリー・キュリーの挑戦 科学・ジェンダー・戦争』トランスビュー、2010年。

否定できない出自や環境に縛られるのではなく、それを希望へ転換した「理系女子」の闘いの軌跡川島慶子『マリー・キュリーの挑戦 科学・ジェンダー・戦争』トランスビュー、2010年。 「偉大な科学者」にして「良妻賢母」。彼女に冠される形容詞を全否定する…

覚え書:「時代の風:欧州統合の未来=仏経済学者・思想家 ジャック・アタリ」、『毎日新聞』2012年5月27日(日)付。

- 時代の風:欧州統合の未来=仏経済学者・思想家 ジャック・アタリ 「ユーロ連邦」で成長を フランス人は自国大統領を君主とみなしがちだ。仏大統領が皇帝のような存在であるのは日本人や他の外国人には理解されにくい。(天皇制の)日本には首相がおり、英…

興味深い時代であるだけに、なんらかの革命を起こさなければなりません…残念ながら、ずばり的中する解決策は思いつきません。

- 今の時代は面白い。ただ、つまらない時などあるのでしょうか? ヨーロッパで一番退屈な場所はスイスです。ここの人に聞いても、スイスで政権についているのはどの政党か、誰が大統領か、誰もわかりません。完全に匿名であるかのようですが、ただただ機能し…

覚え書:「今週の本棚・新刊:『影の磁力』=原武史・著」。『毎日新聞』2012年05月27日(日)付。

- 今週の本棚・新刊:『影の磁力』=原武史・著 (幻戯書房・2730円) 書斎にこもって文字記録にのみ頼るのでなく、必ずや現場にも身をはこび、直接触れたモノやヒトからあざやかに歴史をよみとる、すぐれた肉体派の政治思想史家による最近の随筆集。二〇…

書評:E・トッド(石崎晴己訳)『アラブ革命はなぜ起きたか―デモグラフィーとデモクラシー』藤原書店、2011年。

ここちよい高揚感さそう本格的な文明論E・トッド(石崎晴己訳)『アラブ革命はなぜ起きたか―デモグラフィーとデモクラシー』藤原書店、2011年。 人類学と人口統計学を駆使して、アラブの春を予見した一冊との評価が多いが、そんな狭苦しい視点で本書を読む…

おとなたちは、何事も、子どもたちが将来しあわせになるためにやったんだ、なんていうんだ、ずうずうしい話じゃないか。

- 国家の代表たちが署名した条約の文句はこうでした。 「われわれ、世界のすべての国の責任ある代表者たちは、生命財産にかけて、つぎの諸点を実行する義務をおう。 1 国境のくい、国境のみはりは、すべてとりのぞく。国境はもはや存在しない。 2 軍隊、銃…

信頼の現象は単に他を信ずるということだけではない

- 信頼の現象は単に他を信ずるということだけではない。自他の関係における未定の未来に対してあらかじめ決定的態度を取ることである。かかることの可能であるゆえんは、人間存在において我々の背負っている過去が同時に我々の目ざして行く未来であるからに…

覚え書:「今週の本棚:松原隆一郎・評 『食の終焉』=ポール・ロバーツ著」、『毎日新聞』2012年05月20日(日)付。

- 今週の本棚:松原隆一郎・評 『食の終焉』=ポール・ロバーツ著 (ダイヤモンド社・2940円) ◇「システム」に組み込まれた後の陰鬱な未来図 経済のグローバル化は避けがたい時代の趨勢(すうせい)だが、野田政権はこれをTPP(環太平洋パートナーシ…

否定的自由のもたらす破壊の凶暴

- 否定的自由にとっては、あらゆる特殊化と客観的規定を絶滅することからこそ自由の自己意識が生じる。そこで、否定的な自由が欲すると思っているものはそれ自身すでに抽象的な表象でしかありえず、これの現実化は破壊の凶暴でしかありえないのである。 −−へ…

覚え書:「今週の本棚・新刊:『むかし原発 いま炭鉱』=熊谷博子・著」、『毎日新聞』2012年05月20日(日)付。

- 今週の本棚・新刊:『むかし原発 いま炭鉱』=熊谷博子・著 毎日新聞 2012年05月20日 東京朝刊 (中央公論新社・2415円) 日本最大の炭鉱にして約1年にわたる激しい労働争議で知られた三池炭鉱。著者は労使双方をはじめ、炭鉱事故や第二次大戦中の強制…

絶対性がなくなると宗教は自己崩壊してしまう。しかし同時に自分と異なる信仰を持つ人もそう思っている

- さて、今日では、冷戦体制が崩壊してしまったので、イデオロギー対立による全面戦争の危機は逼迫したリアリティを持たなくなってしまったが、互いに不寛容になった諸宗教間の対立が、世界各地で目立つようになっている。こうした状況を考えると、たとえヒ…

覚え書:「今週の本棚:加藤陽子・評 『「思想」の軌跡 1921?2011』=『思想』編集部・編」、『毎日新聞』2012年05月20日(日)付。

- 今週の本棚:加藤陽子・評 『「思想」の軌跡 1921−2011』=『思想』編集部・編 (岩波書店・4200円) ◇変革の時代を生きるための思考とは何か 5月11日、楽天・星野仙一監督が、戦後生まれとしては初めてとなる監督通算1000勝に輝いた。…

書評:ベルナール=アンリ・レヴィ(石崎晴己、三宅京子、沢田直、黒川学訳)『サルトルの世紀』藤原書店、2005年。

ベルナール=アンリ・レヴィ(石崎晴己、三宅京子、沢田直、黒川学訳)『サルトルの世紀』藤原書店、2005年。 あまた存在する現代思想家のなかでも、「忘れ去られた」感のある巨人がサルトルではないだろうか−−。 第二次世界大戦後、実存主義の華々しい主張で…

覚え書:「今週の本棚・新刊:『生者と死者をつなぐ』=森岡正博・著」、『毎日新聞』2012年05月20日(日)付。

- 今週の本棚・新刊:『生者と死者をつなぐ』=森岡正博・著 (春秋社・1680円) 生命倫理やジェンダーについて発言を続ける哲学者が、東日本大震災や脳死移植から音楽や現代美術まで、幅広くつづったエッセイ集だ。 60編に通底するのは生命にまつわる…

懐疑が悪いこととして否定されなければならない場合はいつでも、第一にその懐疑が徹底していないとき、第二にその懐疑の動機が正しくないときである

- 懐疑が悪いこととして否定されなければならない場合はいつでも、第一にその懐疑が徹底していないとき、第二にその懐疑の動機が正しくないときである。 −−三木清『語られざる哲学』講談社学術文庫、1977年、15頁。 - よく、学生さんから「せんせいは、疑い…

覚え書:「そこが聞きたい ダヴィンチ展の意義 カルロ・ペドレッティ氏」、『毎日新聞』2012年5月14日(月)付。

- そこが聞きたい ダヴィンチ展の意義 カルロ・ペドレッティ氏万能の人の原点に触れて 「レオナルド・ダ・ヴィンチ美の理想」展が東京・渋谷で開かれている。500年前の巨匠が、なぜ今も世界中で注目され続けているのか。カリフォルニア大学ロサンゼルス校…

この宗教は暴力的で、あの宗教は平和的か??? 戯れ言も程々にしろよ。

- 元来宗教は動(やや)もすると「一種の党派」になり、「いくら自分では公平なつもりでも識らず/\に自分の宗旨に肩をもち」たがるものである(大庭氏訳一六七頁)。併し少しく聡明を開いて考へて見れば、斉しく是れ一人の神の光の反映ではないか。修道院…

書評:ケネス・ルオフ(木村剛久訳)『紀元二千六百年 消費と観光のナショナリズム』朝日新聞出版、2010年。

官民が渾然一体となって仕掛けた「ディスカバー・ジャパン」としての『紀元二千六百年』ケネス・ルオフ(木村剛久訳)『紀元二千六百年 消費と観光のナショナリズム』朝日新聞出版、2010年。本書を読んで驚いたのは、“国威発揚”のイベントというものは、何か…

理性によって導かれる人間の究極の目的、いいかえれば最高の欲望は−−彼はこの欲望にもとづいて、それ以外のあらゆる欲望を統御しようとする−−こと

- かくて人生でもっとも有益なものは、知性あるいは理性をできるだけ完成させることである。そしてこの点にのみ人間の最高の幸福あるいは至福がある。もちろん至福は、神の直観的な認識から生じる心の安らぎ以外の何ものでもない。他方、知性を完成させると…

一壺の紅の酒、一巻の歌さえあれば、

- (98) 一壺の紅の酒、一巻の歌さえあれば、 それにただ命をつなぐ糧さえあれば、 君とともにたとえ荒屋に住まおうとも、 心は王侯(スルタン)の栄華にまさるたのしさ! −−オマル・ハイヤーム(小川亮作訳)『ルバイヤート』岩波文庫、1979年、78頁。 - 水…

書評:粕谷一希『内藤湖南への旅』藤原書店、2011年。

京大東洋史学の泰斗、内藤湖南膨大な業績から、我々は何を学ぶことができるのか?粕谷一希『内藤湖南への旅』藤原書店、2011年。私事ですが吉野作造研究に従事する身として吉野の中国論を読む上でスルーできないのが内藤湖南。日本東洋学における富士の如く…

覚え書:「今週の本棚:小西聖子・評 『理系の子--高校生科学オリンピックの青春』=ジュディ・ダットン著」、『毎日新聞』2012年05月13日(日)付。

- 今週の本棚:小西聖子・評 『理系の子−−高校生科学オリンピックの青春』=ジュディ・ダットン著 (文藝春秋・1785円) ◇創造を信じる子と親と社会のファンタジー 高校生の数学オリンピックは日本でも有名になったが、理科の分野でも同じような行事があ…

書評:アントニオ・ネグリ(杉村昌昭訳)『さらば、“近代民主主義”―政治概念のポスト近代革命』作品社、2007年。

アントニオ・ネグリ(杉村昌昭訳)『さらば、“近代民主主義”―政治概念のポスト近代革命』作品社、2007年。 思想哲学の分野に限らず、現代の特徴とは、伝統的な概念が、もはやうまく機能しなくなってきているという問題だろう。発想にせよシステムにせよ、そ…

覚え書:「今週の本棚:伊東光晴・評 『ティーパーティ運動の研究』=久保文明ほか編著」、『毎日新聞』2012年05月13日(日)付。

- 今週の本棚:伊東光晴・評 『ティーパーティ運動の研究』=久保文明ほか編著 (NTT出版・2940円) ◇アメリカ「草の根保守」の実態に迫る 共和党の予備選挙下、右派を支える草の根地域運動であるティーパーティについてのすぐれた実証的な研究が、こ…

比喩や象徴などを理解する方法。それらを解釈しようとくわだてないこと

- 比喩や象徴などを理解する方法。それらを解釈しようとくわだてないこと。光が溢れ出てくるまで、じっと見つめつづけること。 一般的に、知性を訓練する方法は、見つめることである。 実在するものと幻想上のものとを見分けるために、この方法を用いること…

覚え書:「今週の本棚・新刊:『李鴻章 東アジアの近代』=岡本隆司・著」、『毎日新聞』2012年05月13日(日)付。

- 今週の本棚・新刊:『李鴻章 東アジアの近代』=岡本隆司・著 (岩波新書・798円) 李鴻章(1823−1901)といえば、われわれは19世紀半ばの洋務運動の指導者、日清戦争における清朝の全権使節ということを想起する。しかし、その存在は、実はも…

書評:中村綾乃『東京のハーケンクロイツ 東アジアに生きたドイツ人の軌跡』白水社、2010年。

極東の地に暮らすドイツ人がナチズムをどのように受け止めたのか。中村綾乃『東京のハーケンクロイツ 東アジアに生きたドイツ人の軌跡』白水社、2010年。 ナチズムに関する先行研究は膨大に存在する。思想や政治、文化や歴史等々様々なアプローチが多岐に渡…