2012-04-01から1ヶ月間の記事一覧

覚え書:「今週の本棚・情報:『書物復権』書籍決まる」、『毎日新聞』2012年04月29日(日)付。

- 今週の本棚・情報:「書物復権」書籍決まる 8出版社が取り組む専門書の共同復刊事業「書物復権」で、ファクスやネットによる意見をもとに今年の復刊書籍が決まった。5月下旬から紀伊國屋書店(一部除く)など協力約200店で41点42冊が復刊される。…

覚え書:「今週の本棚:山崎正和・評 『安部公房の都市』=苅部直・著」、『毎日新聞』2012年04月29日(日)付。

- 今週の本棚:山崎正和・評 『安部公房の都市』=苅部直・著 (講談社・1785円) ◇「根無し草」の矜持を再発見する時代 安部公房の作家生活の時代、日本社会は流転彷徨(ほうこう)の相をきわめ、知識人は「根無し(デラシネ)草」の思いを深めていたと…

書評:イバン・イリイチ、デイヴィッド・ケイリー編(臼井隆一郎訳)『生きる希望―イバン・イリイチの遺言』藤原書店、2006年。

「人間のために」と整備されたシステムとサービスが、人間の自律を喪失させていく錯綜と経緯を執拗に追求したイリイチ思想の集大成イバン・イリイチ、デイヴィッド・ケイリー編(臼井隆一郎訳)『生きる希望―イバン・イリイチの遺言』藤原書店、2006年。 本…

宇野常寛『ゼロ年代の想像力』ハヤカワ文庫、2011年。

サブ・カルチャーに投影された想像力を検証し、その新たな可能性を展望する一冊。宇野常寛『ゼロ年代の想像力』ハヤカワ文庫、2011年。1990年代後半のインパクトは何だろうか。様々考えられるが、「がんばれば、意味が見つかる」世の中から、「がんばっても…

「ほとんどの人は自分たちの価値基準を再考する必要を痛感することすらない」ことを暴くソクラテスの対話

- ソクラテスはプラトンより四二歳年長であった。職業上は彫刻家であったが、彼が歴史の上に占めている重要性は、哲学思想の進展に及ぼした革新的な影響に存している。彼以前の思想家たちは、物質および宇宙総体の本性に関心を向けていた。そして彼らが外界…

E・ヤング=ブルーエル(矢野久美子訳)『なぜアーレントが重要なのか』みすず書房、2008年。

アーレントが徹底して思考したことを、今現在の課題としてどう生かしていくのか。弟子による内的対話の記録。E・ヤング=ブルーエル(矢野久美子訳)『なぜアーレントが重要なのか』みすず書房、2008年。アーレントが徹底して思考したことを、今現在の課題と…

「隔たり」を認めながらも「人間性の一なること」を信じる

- 私事にわたるけれど『タルムード新五講話』の訳書を送ったおりに、翻訳の作業そのものが私に自己省察の得難い機会を提供してくれたことに感謝の意を表したことがある。その手紙への返信のなかでレヴィナスはこう書いてくれた。 「あなたが克服しなければな…

書評:小河原正道『近代日本の戦争と宗教』講談社 2010年。

幕末から日露戦争まで、仏教・神道・キリスト教の各派の戦争「適応」「従属」から何を学ぶか。小河原正道『近代日本の戦争と宗教』講談社 2010年。近代日本というドラマを創造するさい、宗教はどのような役割を果たしたのだろうか。戦争という切り口からその…

奴隷の学問をのり越えて:「新しい思想」という看板で勝負する限り、次に「新しい思想」が流入してくると、その新鮮さが失われていく

- 筆者は、吉野作造の「民本主義論」を高く評価するものである。その内には、「明治デモクラシー」のすべてが吸収されているからである。二大政党制、普通選挙、社会民主主義だけでなく、悪名高い「主権在君」の容認についてすら、「明治デモクラシー」の「…

書評:アマルティア・セン(大門毅・東郷えりか訳)『アイデンティティと暴力−−運命は幻想である』勁草書房、2011年。

「人間のアイデンティティを『単眼的』に矮小化することは甚大な影響を及ぼす」アマルティア・セン(大門毅・東郷えりか訳)『アイデンティティと暴力−−運命は幻想である』勁草書房、2011年。 アマルティア・センの関心は一人ひとりの個人にある。それが氏の…

新入生へのちょっとしたアドバイス:「何かを教えてくれる」から「自分で問いを探究する」へ

新入生へのちょっとしたアドバイス 大学で授業をしていると「何か教えてくれる」という姿勢で参加される学生さんの姿をよくみかけます。その真剣な姿には、襟をただしたいと思いますし、その求めに全力に応じていかなければならないと私は思います。 しかし…

覚え書:「今週の本棚:養老孟司・評 『生物多様性を考える』=池田清彦・著」、『毎日新聞』2012年04月22日(日)付。

- 今週の本棚:養老孟司・評 『生物多様性を考える』=池田清彦・著 (中公選書・1365円) ◇きわめて論理的な科学者の手になる「保全」論 一昨年は国連の定める国際生物多様性年ということで、さまざまな社会的な動きがあった。要するに政府から関連予算…

書評:黒岩比佐子『パンとペン 社会主義者・堺利彦と「売文社」の闘い』講談社、2010年。

苦境を笑いとばし、文で闘う堺利彦の抵抗の精神黒岩比佐子『パンとペン 社会主義者・堺利彦と「売文社」の闘い』講談社、2010年。 大逆事件以降、社会主義運動は「冬の時代」を迎える。その時期に、翻訳・編集会社「売文社」を興し、運動の資金稼ぎを行った…

「私の存在する権利に関わる問いとは、すでに他者の死に対する私の有責性のこと」。親父が死んで13年目に考えたこと

- 私の存在する権利に関わる問いとは、すでに他者の死に対する私の有責性のことであり、その問いは私の無反省的な存在固執の自然発生性を不意に断ち切るのである。存在する権利とこの権利の正当性は、最終的には、法という普遍的規範という抽象概念を権原と…

覚え書:「今週の本棚:三浦雅士・評 『チョムスキー言語基礎論集』=チョムスキー著、福井直樹・編訳」、『毎日新聞』2012年04月22日(日)付。

- 今週の本棚:三浦雅士・評 『チョムスキー言語基礎論集』=チョムスキー著、福井直樹・編訳 (岩波書店・6825円) ◇「本能としての言語」論が持ち得た包容力 人間の幼児はなぜ短期間のうちに猛烈な速さで言語を習い覚えてしまうのか。また、その言語が…

書評:高澤秀次『文学者たちの大逆事件と韓国併合』平凡社新書、2010年。

創業時代としての「明治」の「栄光」が「創造」される1910年(大逆事件と日韓併合)。高澤秀次『文学者たちの大逆事件と韓国併合』平凡社新書、2010年。 本書は、大逆事件が文学者に与えた影響を概観する一冊だが、射程の広さと考察の深さで度肝をぬく労作だ…

B級グルメ列伝:東京都八王子市:東池袋大勝軒 八王子店

「ラーメン」ではなく「中華そば」を食べたくなったとき、必ず訪れるのが『東池袋 大勝軒』。違いは何?と聞かれれば返答に窮するのも事実ですが(汗、流行の魚介豚骨をはじめとする様々な創意工夫をした平成の名店のそれを「ラーメン」とくくるならば、昭和…

覚え書:「時代の風:『ソマリア化』する世界=仏経済学者・思想家、ジャック・アタリ」、『毎日新聞』2012年04月22日(日)付。

- 時代の風:「ソマリア化」する世界=仏経済学者・思想家、ジャック・アタリ ◇政治の力で市場制御を−−ジャック・アタリ(Jacques Attali) 民主主義を伴わない市場のグローバル化(地球規模化)は「ルールのない世界」を生む。無政府状態が15…

書評:姜克實『近代日本の社会事業思想―国家の「公益」と宗教の「愛」』ミネルヴァ書房、2011年。

国家と宗教の関係を主軸に置き、近代日本の社会事業の足跡をたどる。 近代日本の社会事業思想―国家の「公益」と宗教の「愛」 (MINERVA人文・社会科学叢書)posted with amazlet at 12.04.22姜 克實 ミネルヴァ書房 売り上げランキング: 570039Amazon.co.jp で…

書評:若松英輔『井筒俊彦−−叡知の哲学』慶應義塾大学出版会、2011年。

対話の達人・井筒俊彦のはじめての本格的評伝 若松英輔『井筒俊彦−−叡知の哲学』慶應義塾大学出版会、2011年。 世界的イスラム学者・言語哲学者として知られながら、国内ではほとんど真正面から論じられることのなかった大碩学のひとりは、間違いなく井筒俊…

書評:タミム・アンサーリー(小沢千重子訳)『イスラームから見た「世界史」』紀伊國屋書店、2011年。

もっとも新しい世界宗教としてのイスラームの歴史と生活。平板な認識を更新する一書タミム・アンサーリー(小沢千重子訳)『イスラームから見た「世界史」』紀伊國屋書店、2011年。 日本と西洋社会に共通している問題とは何か。それはその両者の間に広く・深…

「こんにちは」、「お先にどうぞ」、「御用があればなんなりと」、こういったさりげない決まり文句に人間性は宿り、人間を元気にする!

- 善性はなんらかの観念やいくばかの小額の献金によって表わされはしない。そうではなく一つの生きる構えとして、日常生活において休みなく生きられた、他人への気遣いとして表現されるものなのだ。それはすぐれて社会的な関係、包容力において示される。そ…

書評:テリー・イーグルトン(大橋洋一)『テロリズム 聖なる恐怖』岩波書店、2011年。

人間の本質に内在する聖なるものの二面性に注目テリー・イーグルトン(大橋洋一)『テロリズム 聖なる恐怖』岩波書店、2011年。「いかなる支配形式も理性形式も、みずからの核心にある非理性の要素にしかるべき敬意を払う」。2001年の9・11以降、テロの連…

特効薬という病

現実に特効薬はない。 現状がこのようにまずいから、これやっちゃえば大丈夫だ!という連呼が最近すさまじい。そういう単純にこれをやればという「特効薬なーう」のような言葉を聞くと、おいおいと思ってしまいます。 確かに場合によっては可能なこともある…

覚え書:「今週の本棚・新刊:『鎮魂と再生 東日本大震災・東北からの声100』=赤坂憲雄・編」、『毎日新聞』2012年04月15日(日)付。

- 今週の本棚・新刊:『鎮魂と再生 東日本大震災・東北からの声100』=赤坂憲雄・編 (藤原書店・3360円) 東北に生まれ育ち、あるいは縁あって東北にくらす聞き手たちが、「それぞれに被災地を訪ね、被災された方たちに会い、その語りに耳を傾け」(…

火事の起こらない先に火事装束をつけて窮屈な思いをしながら、町内中駈け歩く

- 一体国家というものが危うくなれば誰だって国家の安否を考えないものは一人もない。国が強く戦争の憂が少なく、そうして他から犯される憂がなければないほど、国家的観念は少なくなって然るべき訳で、その空虚を充たすために個人主義が這入ってくるのは理…

覚え書:「今週の本棚:村上陽一郎・評 『近代のまなざし 写真・指紋法・知能テストの発明』=山下恒男・著」、『毎日新聞』2012年04月15日(日)付。

- 今週の本棚:村上陽一郎・評 『近代のまなざし 写真・指紋法・知能テストの発明』=山下恒男・著 (現代書館・2730円) ◇欧米に現れた「人間を計る科学的手法」の功罪 特異な観点を備えた書物である。標題は「近代のまなざし」とあるが、まなざしの赴く…

書評:鶴見俊輔『思い出袋』岩波新書、2010年。

不良少年として生きる……国家と個人との関係を思考し続けてきた鶴見俊輔氏の力強い回想録。鶴見俊輔『思い出袋』岩波新書、2010年。 「くに」にしても「かぞく」にしても、それは現象として仮象的に存在するものにすぎず、モノとしての実体として存在するわけ…

B級グルメ列伝:東京都新宿区編:伝説のすた丼屋 早稲田店

先日、仕事で高田馬場に立ち寄った際、訪れたのが「伝説のすた丼屋」。いわゆるクィックでボリュームたっぷりの「ワセメシ」の代表といえましょう。ホントは別の店が目的だったのですが(汗、あいにく開店前でしたので、以前より気になっていた「スタ丼」な…

覚え書:「今週の本棚:加藤陽子・評 『近代東京の私立中学校−−上京と立身出世の社会史』=武石典史・著」、『毎日新聞』2012年04月15日(日)付。

- 今週の本棚:加藤陽子・評 『近代東京の私立中学校?上京と立身出世の社会史』=武石典史・著 (ミネルヴァ書房・6300円) ◇明治教育、弾力性の奇跡を支えたもの 盆暮れの2回の帰省ラッシュはおなじみの光景だが、大渋滞をテレビで見るたびに、この民族…