覚え書:「異論反論 生活保護バッシングがやみません 寄稿=雨宮処凛」、『毎日新聞』2012年6月20日(水)付。


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異論反論 生活保護バッシングがやみません 寄稿=雨宮処凛

貧困拡大の責任は誰に
 7日、ある記者会見が開催された。
 芸能人の母親が生活保護を受けていたことが世間を騒がせているが、専門家達が冷静な報道と議論を求めて開催したのだ。こうした会見を行わなければならないほど、バッシングは苛烈だ。もう何度も、生活保護受給者から「死にたい」という声を聞いた。
 前にも書いたが、受給者の8割は高齢、傷病、生涯世帯。稼働年齢層でも、過半数が50代以上だ。ちなみに不正受給率は2%以下。生活保護の学にして0・4%以下である。このことをどれぐらいの人が知っているだろう。
 嵐のように吹き荒れる「生活保護バッシング」ブーム。ここで少し貧困・生活保護にまつわるブームを振り返ってみよう。07年、北九州市生活保護を辞退させられた男性が「おにぎり食べたいという言葉を残して餓死しているのが発見される。これによって「水際作戦」が問題となる。翌年9月、リーマン・ショックで日本中に「派遣切り」が広がり、年末年始に「年越し派遣村」が開催される。深刻な「貧困」が可視化されたことによって世の中に広がったのは、「貧しい人の窮状は決して自己責任だけではないのだ」という考えではなかったか。そしてそんな貧困・格差を広げ、放置してきたように見える自民党に嫌気がさしたからこそ、09年の政権交代が起きたのではないだろうか。しかし、政権交代後には人々の間に「根拠のない一服感」が広がり、一方で民主党貧困率は公表したものの、「実行する」と言っていた貧困対策をしていない。原因が解決されていないのだから、貧困率は下がるはずはない。当然、受給者は増え続ける。

扶養困難を証明しない限り保護されない恐れ
 先月、取材で北海道に行った。今年1月、札幌市白石区で姉妹が「孤立死」した事件の取材だ。42歳の姉と知的障害のある40歳の妹の遺体は、極寒の地の電気もガスも止められた部屋で、何枚も衣服を着込んだ状態で発見された。姉は3度にわたって生活保護の相談に役所を訪れていたが、SOSは届かなかった。白石区では、25年前にも39歳の女性が餓死している。生活保護の相談に訪れたものの、「別れた夫に扶養の意思があるのかの書面を提出して」と言われ、放置された果ての餓死だった。今回の騒動を受け、小宮山洋子厚生労働相は「親族に扶養が困難な理由を証明する義務」を課す考えを示している。しかし、まさに25年前、その証明ができずに餓死した女性がいた。記者会見では、元ケースワーカーの男性が「証明しない限り保護しない、となる」よその危険性を指摘した。
 今回の騒動の火付け役は、自民党生活保護プロジェクトチームだ。そんな自民党議員は、貧困がここまで拡大したことへの自らの責任についてはどう考えているのだろう。会見の資料には、生活保護受給者のこんな言葉があった。「どうか人気取りの為に私達から生存権を奪わないで下さい。私を殺さないで下さい」

あまみや・かりん 作家。反貧困ネットワーク副代表なども務める。7日の記者会見は「生活保護問題対策全国会議」と「全国『餓死』『孤立し』問題調査団」の主催。「弁護士さんたちと一緒に、生活保護バッシングについて話しました。この問題にはこれからも取り組みます」
    −−「異論反論 生活保護バッシングがやみません 寄稿=雨宮処凛」、『毎日新聞』2012年6月20日(水)付。

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