覚え書:「学校と私:後に大統領になる州知事と18歳で議論=ハーバード大教授、マイケル・サンデルさん」、『毎日新聞』2012年06月25日(月)付。


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学校と私:後に大統領になる州知事と18歳で議論=ハーバード大教授、マイケル・サンデルさん

 私は子供のころから人と議論するのが好きでした。ロサンゼルスの公立高校で生徒会長をしていた時には、当時カリフォルニア州知事で、後に大統領になるロナルド・レーガン氏を学校に招き、生徒たちの前で私がディベートしました。
 ベトナム戦争の真っ最中でした。生徒の大半は戦争に反対でしたが、レーガン氏はもちろん賛成です。18歳で選挙権を与えるかどうかについても議論しましたが、私たちがみんな賛成したのにレーガン氏は反対でした。
 さまざまなテーマで議論しましたが、レーガン氏の意見は、ほとんどで私たちと逆でした。それなのに、彼は生徒の心をつかんでいました。私たちの発言を真剣に聞き、それを尊重してくれたからです。9年後に大統領になる人と18歳の若者では、勝負にならないのも当然かもしれません。
 大学時代、新聞社でインターンシップ(職業体験)をしたことがあります。1974年、ちょうどウォーターゲート事件(当時のニクソン米大統領が辞任に追い込まれた政治スキャンダル)の真っただ中で、学生記者の私にも記事をたくさん書かせてくれました。
 感動的な夏の体験でしたが、いざ卒業段階になると、自分が政治記者になりたいのか、政治家になりたいのか、それとも他の何かになりたいのか分からなくなりました。そこで奨学金を得て、英オックスフォード大に進み、初めて政治哲学に出会いました。
 当初は1学期、哲学を徹底的に勉強したら、次は政治・経済を深めようと思っていたのですが、気付いたら3年、4年となり、結局政治哲学の博士論文を書くことになってしまいました。それが私の最初の著書となり、その後、政治哲学を教えることになったのです。
 私の書いたものを日本でこんなに多く読んでもらえるとは想像もしていませんでした。若い人たちに、社会におけるさまざまな問題や正義とは何かについて真剣に議論したいという飢えがあるからだと思います。5月には慶応大や西南学院大でも講義しました。日本の学生はディベートが苦手と言われますが、決してそんなことはなく、お互いに相手の意見をよく聞き、よく考えて議論していました。【聞き手・井上俊樹】
■人物略歴 1953年生まれ。政治哲学の代表的論客。NHK「ハーバード白熱教室」で、日本でも人気に火が付く。近著に「それをお金で買いますか 市場主義の限界」(早川書房)。
    −−「学校と私:後に大統領になる州知事と18歳で議論=ハーバード大教授、マイケル・サンデルさん」、『毎日新聞』2012年06月25日(月)付。

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