覚え書:「時流底流 中止になった写真展」、『毎日新聞』2012年9月15日(土)付。



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時流底流 中止になった写真展

 ニコンが運営している展示施設「大阪ニコンサロン」(大阪市北区)が現在休館中だ。本来なら、今月13日から19日まで、韓国人写真家の安世鴻(アンセンホン)さん=名古屋市在住=が撮影した元朝鮮人従軍慰安婦の写真展が開催されるはずだった。だが、ニコンは今年5月、東京と大阪で企画された写真展について「諸般の事情」を理由に中止を決めた。背景には、写真展に対して「反日的だ」などと中止を求める意見が、ニコン側に寄せられていたことがある。
 安さんからの申し立てを受けた東京地裁が、会場の提供を命じる仮処分を出したため、新宿ニコンサロンの東京展は開催(6月26日〜7月9日)にこぎ着け、約8000人が訪れた。だが、ニコンの「良心」に期待した大阪での開催はかなわなかった。安さんは大阪展は仮処分の申し立てはしなかった。
 「新宿での写真展は来場者への持ち物検査やボディーチェックがあり、広報物の配布もできなかった。会場内(の様子)は記者だけでなく私も撮影できなかった」。今月9日、東京都練馬区のギャラリーで開かれたトークイベントで、安さんは東京展で厳しい制約があったことを明かした。
 この練馬区のギャラリーでは、「東京第2弾」として練馬区民らが中心となって安さんの写真展を開催した(8月28日〜9月9日)。中国に取り残された12人の元慰安婦(8人が死亡)を01年から05年に撮影した36点を展示し、慰安婦問題などの議論もした。来場者は約1200人を数えたという。安さんは「大阪での開催に仮処分申し立てをしなかったのは、写真展を正常に行いたいという気持ちがあったからだ。写真家にとって発表の場がなくなるのは致命的だ。写真家を失望させることないような行動をニコンには望みたい」と話した。
 ニコンは取材に対し「『諸般の事情』以外の細かい理由はお伝えできない。東京での開催は裁判所の指示に従っただけだ」との説明を繰り返すだけだった。
    −−「時流底流 中止になった写真展」、『毎日新聞』2012年9月15日(土)付。

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