覚え書:「異論反論 沖縄で米兵による性暴力事件が起きました=佐藤優」、『毎日新聞』2012年10月31日(水)付。+α






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異論反論

沖縄で米兵による性暴力事件が起きました
寄稿 佐藤優

「事故」とする政府の不誠実

 16日、沖縄で発生した米兵2人よる集団強姦致傷事件によって、日本の国家統合が揺らぎ始めている。事件自体の悪質性だけでなく、それに対する中央政府の対応が不誠実だからだ。沖縄の感情をとりわけ逆なでしているのが森本敏防衛相だ。森本氏は、今回の事件について繰り返し「事故」であるという認識を示してる。
 22日付琉球新報は、社説で〈事件の重大性を薄めて国民の印象を操作することは、加害者側をかばうような行為であり、言語道断だ。/森本防衛相は、記者団から事件の受け止め方を聞かれ、「非常に深刻で重大な『事故』だ」と発言した。二度、三度繰り返しており、吉良州司外務副大臣も同様に使っている。米軍基地内外で相次ぐ性犯罪を米政府は申告に受け止めている。これに比べ日本側の対応は浅はかとしか言いようがない。/防衛相は、仲井真弘知事の抗議に対し「たまたま外から出張してきた米兵が起こす」と発言した。/しかし、在沖米軍の大半を占める海兵隊は6カ月ごとに入れ替わる。移動は常態化しており、「たまたま外から出張してきた」との説明は言い訳にすぎない。そのような理屈が成り立つなら「ローテーションで移動してきたばかりで沖縄の事情を知らない兵士がたまたま事故を起こした」といくらでも正当化できよう。防衛相は詭弁を弄するのではなく、無責任な発言を直ちに撤回すべきだ。〉と述べるが、その通りだ。無責任な発言を撤回するだけでは不十分で、謝罪した上で森本防衛相は辞任すべきだと思う。こういう人が防衛相の椅子にしがみついていると、沖縄で日本からの分離を求める運動が始まりかねない。

日本から独立の動きに
外務官僚は危機感抱く
 マスメディアはほとんど取り上げられていないが、7月31日、日本政府(担当は外務省)が国連人種差別撤廃委員会(CERD)の情報提供要請に応じ、「日本政府は、この情報の提供により、普天間飛行場辺野古移設計画は同飛行場の危険性の除去、沖縄の負担軽減及び我が国の安全保障上の要請によるもの、また、高江地区ヘリパッド建設計画は土地の大規模な返還による沖縄の負担軽減及び我が国の安全保障上の要請によるものであり、両計画とも差別的な意図に基づくものでは全くないことを強調する」(外務省ホームページ)と回答した。差別が構造化されている場合、差別者はその現実を認識していないのが通例だ。なお、この回答には〈一般的に言えば、沖縄県に居住する人あるいは沖縄県の出身者がこれら(引用者注*人種差別撤廃条約の対象となる)諸特徴を有している、との見解が我が国国内において広く存在するとは認識しておらず、よってこれらのひとびとは本条約にいう人種差別の対象とはならないものと考えている〉と記されている。「沖縄人が他の日本人と異なる独自性をもつ」という認識が拡大すれば、深刻な事態に発展するという危機意識を、外務官僚は明らかにもっている。

さとう・まさる 1960年生まれ。作家。元外務省主任分析官。「アルバニアの作家イスマイル・カダレの『後継者』(未邦訳)を英訳で読み、強い衝撃を受けました。最も親しい友に猜疑(さいぎ)を向ける独裁者の心理が見事に描かれています。近未来の日本で、この小説の世界が現れるのではないかと不安になってきました」
    −−「異論反論 沖縄で米兵による性暴力事件が起きました=佐藤優」、『毎日新聞』2012年10月31日(水)付。

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防衛相「事故」発言 人権感覚を欠く妄言
2012年10月22日
 米海軍兵による集団女性暴行致傷事件を森本敏防衛相が繰り返し「事故」と表現している。これが国民を守るべき立場の閣僚の人権感覚か。妄言のそしりを免れない。
 通りすがりの女性を路上で暴行した行為は容疑通りなら、凶悪犯罪だ。蛮行を「事故」と矮小(わいしょう)化し表現することで被害女性をさらに傷つけ、苦しめてしまうとの想像力は働かないのか。女性全体を侮辱する発言でもあり断じて許せない。
 いま国がやるべきことは、米軍に対して毅然とした態度で被害女性に対する謝罪や賠償、ケアを求めることであり、実効性ある再発防止策を打ち出させることだ。事件の重大性を薄めて国民の印象を操作することは、加害者側をかばうような行為であり言語道断だ。
 森本防衛相は、記者団から事件の受け止め方を聞かれ、「非常に深刻で重大な『事故』だ」と発言した。二度、三度繰り返しており、吉良州司外務副大臣も同様に使っている。米軍基地内外で相次ぐ性犯罪を米政府は深刻に受け止めている。これに比べ日本側の対応は浅はかとしか言いようがない。
 防衛相は、仲井真弘多知事の抗議に対し「たまたま外から出張してきた米兵が起こす」と発言した。
 しかし、在沖米軍の大半を占める海兵隊は6カ月ごとに入れ替わる。移動は常態化しており、「たまたま外から出張してきた」との説明は言い訳にすぎない。そのような理屈が成り立つなら「ローテーションで移動してきたばかりで沖縄の事情を知らない兵士がたまたま事故を起こした」といくらでも正当化できよう。防衛相は詭弁(きべん)を弄(ろう)するのではなく、無責任な発言を直ちに撤回すべきだ。
 復帰後、県警が認知しているだけでも127件の女性暴行事件が起きた。認知に至らず事件化していない事案も含めると女性の尊厳がどれだけ踏みにじられたことか。
 政府に警告する。米兵犯罪が後を絶たないため仲井真知事をはじめ多くの県民が、「諸悪の根源」は米軍の特権を認め占領者意識を助長している日米地位協定にあるとの認識を一段と深めている。
 県民からすれば凶悪犯罪を「事故」と認識する不見識な大臣、副大臣を抱えたことこそ「事故」だ。米兵犯罪や基地問題と真剣に向き合えない政務三役は、政権中枢にいる資格はない。日米関係を再構築する上でも害悪だ。
    −−「社説:防衛相『事故』発言 人権感覚を欠く妄言」、『琉球新報』2012年10月22日(月)付。

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http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-198321-storytopic-11.html


外務省:人種差別撤廃条約第9条、及び人種差別撤廃委員会手続規則第65条に基づく2012年3月9日付け人種差別撤廃委員会からの情報提供要請に対する回答(2012年7月31日)

仮訳(PDF)http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jinshu/pdfs/req_info_120731_jp.pdf


英語正文(PDF)http://www.mofa.go.jp/policy/human/pdfs/req_info_120731_en.pdf












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