覚え書:「今週の本棚・本と人:『検証 官邸のイラク戦争』 著者・柳澤協二さん」、『毎日新聞』2013年05月05日(日)付。




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今週の本棚・本と人:『検証 官邸のイラク戦争』 著者・柳澤協二さん
毎日新聞 2013年05月05日 東京朝刊

 (岩波書店・2520円)

 ◇日米安保戦略の矛盾問う−−柳澤協二(やなぎさわ・きょうじ)さん

 「テロとの戦い」を錦の御旗(みはた)に米国が始めたイラク戦争から10年。制圧後、開戦の前提となる大量破壊兵器(WMD)が存在しなかったことが判明、国際社会に衝撃を与えたことを忘れてはならない。自衛隊イラク派遣の実務責任者だった元内閣官房副長官補の著者が、武力行使を支持した政府の判断と自衛隊派遣プロセスを、自省の念を込めて検証した。浮かび上がるのは、日米同盟の維持が自己目的化し、この国の安保政策の戦略的思考を「狭めている」事実であろう。

 「政府は当時、北朝鮮核問題を抱える中、WMDに関する情報も持たず、『開戦支持以外あり得ない』という空気が支配していました。小泉純一郎首相は、日本が軍事的リスクを負うことで、国際社会で『名誉ある地位』を占めて政治的影響力を持とうと政治判断したが、そうならなかった。そもそも前提も違っていた」。退官後も胸中のモヤモヤが晴れず、自分なりの答えを出すために書き始めた。

 70年安保の年に防衛庁(当時)入りし、96年の日米ガイドライン改定など、一貫して同盟の維持と深化に心を砕いた。「トゥーリトル、トゥーレイト」と批判された91年の湾岸戦争がトラウマになり、9・11後の「ショー・ザ・フラッグ」、イラク戦争開戦時の「真の同盟国たれ」と迫る米側の要請を受け、戦争の正当化に腐心。当事者だけに、なぜ自衛隊を派遣し復興支援をするのかという根本の議論を欠いた描写は具体的だ。「『ブーツ・オン・ザ・グラウンド』を継続しないと、同盟がもたないという強迫観念の域にまで達していた」と考察する。

 イラク戦争後、中国の台頭など国際情勢は様変わりしたが、「日本と米国とその他の世界」という世界観から、日本は今も抜け出していないと見る。単純な二元論の図式で考えたり、勇ましい過激な言論をもてはやしたりする近年の風潮も気になるという。「丁寧な議論を促すためにエンジンブレーキの役割を果たしたい。執筆を通じて、政策決定プロセスの中に身を置いていた人間ならではの役割はこれだ、と気持ちが固まりました」<文・中澤雄大/写真・藤原亜希>
    −−「今週の本棚・本と人:『検証 官邸のイラク戦争』 著者・柳澤協二さん」、『毎日新聞』2013年05月05日(日)付。

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