書評:上野俊哉『思想の不良たち 1950年代 もう一つの精神史』岩波書店、2013年。




上野俊哉『思想の不良たち 1950年代 もう一つの精神史』岩波書店、読了。本書は、近代日本の矛盾と葛藤と正面から切り結んだ安部公房鶴見俊輔花田清輝きだみのる)を取り上げ、その思想の可能性を問い直す試み。戦争、メディア、民衆を切り口に、近代という「ずれ」に立ちつづけた四人の不良たちだ。

彼らは「一つの立場に拘泥し、これに生命を賭ける、ということのばからしさをよく知っている」。だから不良なのだ。律儀に線路を走り続けるのでもなく、脊髄反射的全否定でもない。その苦渋に満ちた逸脱や倒錯の自覚的選択に著者は注目する。

四人の不良は自己同一性への果敢なき抵抗で共通する。「『正しい』立場が見失いがちなアノニマス(匿名的)な知性の転回と倒錯に身構えてほしい」。現代社会をトランスローカルに俯瞰し、しなやかな知性と批判精神とは何かを学ぶことのできる、格好の一冊。







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思想の不良たち――1950年代 もう一つの精神史
上野 俊哉
岩波書店
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