書評

書評:ジーン・シャープ(瀧口範子訳)『独裁体制から民主主義へ 権力に対抗するための教科書』(ちくま学芸文庫)。

ジーン・シャープ(瀧口範子訳)『独裁体制から民主主義へ 権力に対抗するための教科書』(ちくま学芸文庫)紐解く。なぜ非暴力不服従が有効なのか? 答えは簡単だ。独裁者は統治する民衆の支えを必要とするからだ。歴史的変革を事例に198の方法を提案す…

日記:立ち止まって考えること

- 一方、戦争における指導層の責任は単純化される。失敗がめにみえるものであっても、思いのほか責任を問われず、むしろ合理化される。その一方で、指導層が要求する苦痛、欠乏、不平等その他は戦時下の民衆が受容し忍耐すべきものとしての倫理性を帯びてく…

拙文:「読書 小林公ニ『アウシュヴィッツを志願した男』講談社 “巨悪”に抗い続けた生涯」、『聖教新聞』2015年07月25日(土)付。

- 読書 アウシュヴィッツを志願した男 小林公ニ 著“巨悪”に抗い続けた生涯 ナチスの絶対悪の象徴であるアウシュヴィッツ絶滅収容所。生還者の一人プリーモ・レーヴィが「人間であることの恥辱」と読んだ過酷な世界に自ら志願した人間がいる。ポーランド軍大…

拙文:「読書 ポール・ロバーツ(東方雅美訳 神保哲生解説)『「衝動」に支配される社会』ダイヤモンド社 社会制度が自己崩壊する恐れ」、『聖教新聞』2015年06月27日(土)付。

- 読書 「衝動」に支配される世界 ポール・ロバーツ著 東方雅美訳 神保哲生解説社会制度が自己崩壊する恐れ 『石油の終焉』と『食の終焉』の両著作で現代社会の病理を浮き彫りにしたジャーナリストによる“終焉シリーズの総決算”の一冊だ。 「欲しい」という…

拙文:「読書:中嶋洋平『ヨーロッパとはどこか』吉田書店 統合の理想と現実を綴る」、『聖教新聞』2015年05月23日(土)付。

- 読書ヨーロッパとはどこか 中嶋洋平 著統合の理想と現実を綴る ユーラシア大陸の西端の狭い一角に、数多くの主権国家がひしめくヨーロッパ−−複雑な国境線を超えた一つのまとまりとして理解されている。なぜなら、現代世界を規定する理念と仕組みの全ては国…

日記:「まったく個人的であり、だからこそ奥底で普遍に通じる、そんな力が」

ちょうど赤坂真理さんの『愛と暴力の戦後とその後』(講談社現代新書)読み終えた。個人の記憶との対話から戦後の歩みを読み解く秀逸な論評。「まったく個人的であり、だからこそ奥底で普遍に通じる、そんな力が」と結ばれる。先験的な理念から批判する大上…

拙文:「読書:中田整一『ドクター・ハック』平凡社 戦中、日米間の和平工作に奔走」、『聖教新聞』2015年04月25日(土)付。

- 読書ドクター・ハック 中田整一 著戦中、日米間の和平工作に奔走 戦前・戦中日本の行く末を決定付ける局面に必ずその姿を現わすのが、ドイツ人エージェント、ドクター・ハックことフリードリヒ・ハックだ。 女優・原節子のデビュー作となる日独合作映画「…

拙文:「読書 大賀祐樹『希望の思想 プラグマティズム入門』筑摩選書 連帯と共生への可能性を開く」、『聖教新聞』2015年03月28日(土)付。

- 読書 希望の思想 プラグマティズム入門 大賀祐樹 著連帯と共生への可能性を開く 現代思想の諸潮流の中でプラグマティズムほど不当な扱いを受けたものはない。実用主義の訳語は早計すぎて“浅い”という印象をあたえる。著者はパース、ジェイムズ、デューイと…

書評:将基面貴巳『言論抑圧 矢内原事件の構図』中公新書、2014年。

将基面貴巳『言論抑圧 矢内原事件の構図』中公新書,読了。『中央公論』掲載の「国家の理想」が反戦的とされ辞任に追い込まれた矢内原忠雄事件は戦前日本を代表する政治弾圧の一つだ。本書は歴史を複眼的に見る「マイクロヒストリー」の手法から、言論抑圧事…

拙文:「読書 小川仁志、萱野稔人『闘うための哲学書』講談社 思索の言葉めぐる対談集」、『聖教新聞』2015年02月28日(土)付。

- 読書 闘うための哲学書 小川仁志、萱野稔人 著思索の言葉めぐる対談集 プラトンやデカルトといった古典的著作からフーコーやロールズなど思想史を刷新する現代の名著まで22冊の哲学書を取り上げ、気鋭の哲学者2人が、その魅力を縦横に語った対談集であ…

書評:内田樹『街場の憂国論』晶文社、2013年。

内田樹『街場の憂国論』晶文社、読了。本書は国家や政治にかかわる著者のエッセイ集。未曾有の「国難」に対し、どう処するべきか。未来を「憂う」ウチダ先生の処方箋。表紙扉裏に「スッタニパータ」の一節「犀の角のようにただ独り歩め」と印刷。ノイズを退…

書評:ジャン=フランソワ・リオタール(松葉祥一訳)『なぜ哲学するのか?』法政大学出版局、2014年。

ジャン=フランソワ・リオタール『なぜ哲学するのか?』法政大学出版局、読了。哲学することと実践の架橋に悩むリオタールが40歳の時、パリ第1大学で新入生に行った、哲学と欲望、哲学の起源、哲学の言葉、政治など4つの講義を収録する。リオタールによ…

書評:ヴィクトール・E・フランクル(中村友太郎訳)『生きがい喪失の悩み』講談社学術文庫、2014年。

ヴィクトール・フランクル(中村友太郎訳)『生きがい喪失の悩み』講談社学術文庫、読了。「意味を失った人生についての苦悩」(原題)といかに向き合うか。本書は強制収容所を経験した著者の提唱するロゴセラピーの格好の入門書。哲学的人間学の具体的展開…

書評:尾崎行雄『立憲主義の日本的困難 尾崎行雄批評文集1914―1947』書肆心水、2014年。

尾崎行雄『立憲主義の日本的困難 尾崎行雄批評文集1914―1947』書肆心水、読了。一貫して立憲主義の理想を掲げ、藩閥・金権政治を批判した尾崎行雄。本書はその批評をまとめたもの。一読すると、古くて根深い日本の反立憲主義的心性との闘いが「憲政…

書評:ミシェル・ワルシャウスキー(脇浜義明訳)『国境にて イスラエル/パレスチナの共生を求めて』つげ書房新社、2014年。

ミシェル・ワルシャウスキー(脇浜義明訳)『国境にて イスラエル/パレスチナの共生を求めて』つげ書房新社、読了。「越えてはならない国境もあれば、むしろ破るべき国境もある」。本書はマツペンを経てAICで反シオニズム闘争を続ける「国境をアイデンテ…

書評:サラ・マレー(椰野みさと訳)『死者を弔うということ』草思社、2014年。

サラ・マレー(椰野みさと訳)『死者を弔うということ』草思社、読了。本書は高級紙のベテラン記者の著者が父親の死を契機に、世界各地の葬送をめぐる旅に出たその記録だ(副題「世界各地に葬送のかたちを訪ねる」)。シチリア島のカタコンベ、来世への餞別…

書評:小島毅『増補 靖国史観』ちくま学芸文庫、2014年。

小島毅『増補 靖国史観』ちくま学芸文庫、読了。天皇中心の日本国家を前提し、内戦の勝者・薩長の立場から近代を捉えるご都合主義の「靖国史観」、これまで外在的批判は多数あったが、本書は「日本思想史を読みなおす」(副題)ことで、思想史的に内在的に批…

書評:想田和弘『熱狂なきファシズム 日本の無関心を観察する』河出書房新社、2014年。

想田和弘『熱狂なきファシズム』河出書房新社、読了。ファシズムに必然するのが狂気的熱狂だ。しかし著者は今日のファシズムを「じわじわと民主主義を壊していく」低温火傷という。「ニッポンの無関心を観察する」(副題)と、憲法改正、特定秘密保護法、集…

書評:ジョン・デューイ(阿部齊訳)『公衆とその諸問題 現代政治の基礎』ちくま学芸文庫、2014年。

ジョン・デューイ(阿部齊訳)『公衆とその諸問題 現代政治の基礎』ちくま学芸文庫、読了。飛躍的に複雑化した機械化と画一化を特徴とする現代社会において、人間の息吹汲み取る民主主義は果たして可能なのか。本書はリップマンが『世論』『幻の公衆』で提起…

拙文:「読書:井上順孝編『21世紀の宗教研究』平凡社 刺激に富む先端科学との邂逅」、『聖教新聞』2014年11月22日(土)付。

- 読書 21世紀の宗教研究 井上順孝編 刺激に富む先端科学との邂逅 「科学的」という評価が合理的な価値あるものと見なされる現代。その対極に位置するのが宗教だ。宗教を迷信と捉えず、「宗教とは何か」を科学的に探究するのが宗教学の出発だったが、学の…

書評:スティーヴン・プロセロ(堀内一史訳)『宗教リテラシー:アメリカを理解する上で知っておきたい宗教的教養』麗澤大学出版会、2014年。

スティーヴン・プロセロ(堀内一史訳)『宗教リテラシー:アメリカを理解する上で知っておきたい宗教的教養』麗澤大学出版会、読了。アメリカ人は信心深い割には宗教に関して無知であり、基本的な知識に疎いうという。本書の副題「アメリカを理解する上で知…

書評:石井光太『浮浪児1945− 戦争が生んだ子供たち』新潮社、2014年。

石井光太『浮浪児1945− 戦争が生んだ子供たち』新潮社、読了。起点の東京大空襲から平成までーー。先の戦争で家族を失い浮浪児となった子供たち。その実像を、記録資料やすでに高齢者となったかつての浮浪児百人以上の聞き取りから迫っていく力作 「終戦から…

書評:飯野亮一『居酒屋の誕生』ちくま学芸文庫、2014年。

飯野亮一『居酒屋の誕生』ちくま学芸文庫、読了。幕府の開かれた江戸は男性都市としてスタートし、居酒屋は非常な発達を遂げたという。「暖簾は縄暖簾と決まっていた?」「朝早くから営業していた?」様々な疑問に答える形でその実像と変化を追う好著。副題…

書評:仲正昌樹『マックス・ウェーバーを読む』講談社現代新書、2014年。

仲正昌樹『マックス・ウェーバーを読む』講談社現代新書、読了。「知識人や学者の知的権威自体が決定的に凋落し、『教養』という言葉が空洞化している今日にあっては、そうしたウェーバーの魅力はなかなか伝わりにくくなっている」。本書は主要著作を参照し…

書評:石光勝『生誕101年 「カミュ」に学ぶ本当の正義』新潮社、2014年。

石光勝『生誕101年 「カミュ」に学ぶ本当の正義』新潮社、読了。カミュの探求を「正義」と捉え、その生涯と思索を、15本の「映画」で辿る異色のカミュ伝。仕掛けの多い構成ながら抜群に「読ませる」一冊だ。著者は若き日、カミュに傾倒したテレビマン。…

書評:樋口直人『日本型排外主義 在特会・外国人参政権・東アジア地政学』名古屋大学出版会、2014年。

樋口直人『日本型排外主義 在特会・外国人参政権・東アジア地政学』名古屋大学出版会、読了。果たしてフラストレーションやルサンチマンといった社会不安だけが日本の排外主義の動機となっているのか。本書は先行研究を踏まえ、著者自身の聞き取り調査も加え…

拙文:「読書:人は時代といかに向き合うか 三谷太一郎著(東京大学出版会)」、『聖教新聞』2014年10月25日(土)付。

- 読書 人は時代といかに向き合うか 三谷太一郎 著永遠なるものを射程に収める 政治史の大家が「時代と向き合い歴史を学ぼうとするすべての人々」に贈る歴史との対話−−近代日本の軌跡をたどる本論集は、さながら考えるヒントの玉手箱だ。 近代日本の歩みとは…

書評:河野哲也『「こども哲学」で対話力と思考力を育てる』河出ブックス、2014年。

河野哲也『「こども哲学」で対話力と思考力を育てる』河出ブックス、読了。最前線で活躍する著者が、その理論と実践の要を判りやすく書き下ろした、「こども哲学」入門。対話と討論を経ても、あらかじめ決まった意見に集約することが教育なのだろうか。相互…

書評:三枝博音『近代日本哲学史』書肆心水、2014年。

三枝博音『近代日本哲学史』書肆心水、読了。明治から戦前昭和に至る「哲学」移植とその受容を同時代の視点から描く。初版は昭和10年刊、ナウカ社より刊行。三枝は1892(明治25)年の生まれだから、「近代日本哲学史」を描くとは、まさに自身の学識の来し…

書評:三谷太一郎『人は時代といかに向き合うか』東京大学出版会、2014年。

三谷太一郎『人は時代といかに向き合うか』東京大学出版会、読了。本書は、政治史の大家が「時代と向き合い歴史を学ぼうとするすべての人々に」贈る歴史論集。近代日本の軌跡を辿り、現代と対話する本論集は、考えるヒントの玉手箱といってよい。 人は時代と…