覚え書:「書評:炭素文明論 佐藤 健太郎 著」、『東京新聞』2013年09月08日(日)付。



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炭素文明論 佐藤 健太郎 著

2013年9月8日

◆「驚異の元素」争奪の人類史
[評者]小林照幸=ノンフィクション作家
 百以上の元素を整列させた周期表で六番目となる炭素。元素記号Cは炭(Carbon)が由来だ。地表、海中など私たちの目に触れる範囲で炭素の元素分布(重量比)は僅(わず)か0・08%。鉛筆の芯の黒鉛やダイヤモンドは炭素原子の単体だが、著者は二酸化炭素(CO2)のように他の様々な元素と結び付く炭素を「驚異の元素」と評する。
 現在まで判明している天然及び人工の化合物はのべ七千万超。うち実に八割が炭素を含む。他の元素にはない特徴で、著者は「元素の絶対王者」「不偏不党の存在」と読者の興味を喚起する。
 炭水化物(コメ、麦、トウモロコシから得られるデンプン)砂糖、香辛料、ニコチン、カフェイン、酒類の主成分のエタノール、数々の火薬類、石油などの炭素化合物を取り上げ、これらの発見、性質、関連物質を考証し、過去、現在の各時代で炭素が人類と化学反応して不即不離の間柄を築いたことを平易な文体で検証する。
 ニコチン、カフェイン、アルコールは喫茶、飲酒といった世界的文化を生むが、農耕開始から先の世界大戦まで、人類史は食料、化石燃料はじめ炭素を含む天然資源の争奪戦の側面が強い、と考察する視座は目から鱗(うろこ)ものだ。
 大航海時代はアジア・南米の植民地からトウモロコシ、タバコ、香辛料などをヨーロッパにもたらし、日本の戦国時代は大名による水田の分捕り合戦で、第二次大戦は日独伊が油田獲得に挑んだ。先駆ける第一次大戦は石油が軍用機、軍艦の燃料となり、ダイナマイトはじめ様々の爆弾類が使われた。
 現代の地球温暖化の主原因は、空気中の二酸化炭素の濃度増加にある。これも時代との化学反応だ。カーボンナノチューブシェールガスの本格的実用化、さらに光と二酸化炭素、日光でデンプンを作り出す人工光合成の技術開発への展望など今後についても著者は紙幅を割き、「二一世紀も炭素争奪戦の時代」と読者に伝えるのである。
(新潮選書・1365円)
 さとう・けんたろう サイエンスライター。著書『医薬品クライシス』など。
◆もう1冊
 西岡秀三著『低炭素社会のデザイン』(岩波新書)。原発に頼らずに二酸化炭素の排出量を大幅に削減できる新しい社会を構想する。
    −−「書評:炭素文明論 佐藤 健太郎 著」、『東京新聞』2013年09月08日(日)付。

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