覚え書:「今週の本棚・新刊:『ケアとは何だろうか 領域の壁を越えて』=広井良典・編著」、『毎日新聞』2013年10月20日(日)付。



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今週の本棚・新刊:『ケアとは何だろうか 領域の壁を越えて』=広井良典・編著
毎日新聞 2013年10月20日 東京朝刊

 (ミネルヴァ書房・3675円)

 「講座ケア 新たな人間−社会像に向けて」と題する4巻シリーズの第1巻。ケアは今や日本語として定着した言葉だが、最近では医療や福祉のみならず、教育や社会学など幅広い領域で活発に議論されている。そうした動向を踏まえ、より学際的に、また新たな視点からケアの意味を掘り下げるのが講座の狙い。

 総論に当たる本書も刺激的な論考が並ぶ。例えば田中洋子氏の「経済とケアの再設計」は、もともと工業化以前の経済が、ケアを不可分のものとして取り込むことで持続可能な社会を営んできたと指摘する。工業化とともに雇用労働が盛んになる一方、女性が家事・育児や介護、地域づきあいなど金銭に換算されない「ケア労働」を担うという形で経済とケアは分離した。しかし、さらに経済発展が進んだ結果、女性の意識が変化し、雇用労働の安定性も崩れる中で、ケアを社会全体の問題としてとらえる必要性が高まっていることをドイツの政策を例に論じている。

 医療・看護や文化伝承、コミュニティー形成などに関する多彩な実践例も多く紹介され、ケアがいわば脱成長時代のキーワードになっているのがよく分かる。(壱)
    −−「今週の本棚・新刊:『ケアとは何だろうか 領域の壁を越えて』=広井良典・編著」、『毎日新聞』2013年10月20日(日)付。

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http://mainichi.jp/feature/news/20131020ddm015070012000c.html


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