覚え書:「民主主義のつくり方 [著]宇野重規 [評者]鷲田清一(大谷大学教授・哲学)」、『朝日新聞』2013年12月08日(日)付。

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民主主義のつくり方 [著]宇野重規
[評者]鷲田清一(大谷大学教授・哲学)  [掲載]2013年12月08日   [ジャンル]政治 


■<習慣>から未来への展望探る

 こんな柔らかい言葉で現代政治について論じる人は、日本の政治学者のなかではめずらしいのではないか。
 以前、この人が〈身体〉という概念を用いて政治史を論じている文章にふれて、とても新鮮に感じたことがある。近代という時代に、社会を人体のように一つにまとめる「超越的な秩序」が不在となって、統合ではなく対立や分断を内に抱えていることがむしろ社会の構成要件になってゆくそのプロセスが、〈脱身体化〉としてとらえられていた。本書ではその視点が、民主主義の未来を展望するなかで、〈習慣〉という視点へと深められている。
 現代は、社会を基礎づける「確実性の指標」が消滅した時代だという認識が出発点にある。だからこそ熟議が必要なのに、市民はいま、かつてないほど世間の動きに流されやすくなっている。そして他方には、政治への深い不信と無力感。そのなかで「あまりに狭くなった政治の回路」を再びどう切り拓(ひら)いてゆくかという問題意識である。
 ここでプラグマティズムに着目するのは、「十分な判断材料がないにもかかわらず、何らかの選択をしなければならない」という状況下で、「実験による社会の漸進的改良」を説いたのがデューイらのその思想だからである。そしてアメリカン・デモクラシーの最良の部分は、この思想を習慣として内面化してきた地域コミュニティーでの自治の経験にあると著者は見る。
 そしてそのあと、隠岐諸島や釜石など中央から遠く離れた地域でいま取り組まれつつある、先住者と新たな移住者との協働による起業やソーシャル・ビジネスなどに、一気に眼(め)を転じる。そこに新たな「民主主義の習慣」を見ようというのだ。
 富の再配分ではなく、負担の再配分(痛みの分かち合い)をこそ語らねばならない「収縮時代」に送り届けられた、一冊の希望の書である。
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 筑摩選書・1575円/うの・しげき 67年生まれ。東京大学教授(政治思想史、政治哲学)。『西洋政治思想史』
    −−「民主主義のつくり方 [著]宇野重規 [評者]鷲田清一(大谷大学教授・哲学)」、『朝日新聞』2013年12月08日(日)付。

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宇野 重規
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