覚え書:「今週の本棚・本と人:『皇帝フリードリッヒ二世の生涯 上・下』 著者・塩野七生さん」、『毎日新聞』2013年12月29日(日)付。

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今週の本棚・本と人:『皇帝フリードリッヒ二世の生涯 上・下』 著者・塩野七生さん
毎日新聞 2013年12月29日 東京朝刊


 (新潮社・各2520円)

 ◇不世出の王へ、万感を込めて−−塩野七生(しおの・ななみ)さん

 「真打ち登場って感じです。私、『境界を超える男』が好きなんです」。半世紀近くも構想を温め続け、ついにフリードリッヒ二世の生涯を書き上げた。

 中世後期のヨーロッパを駆け抜けた王の姿は、あまりにも鮮烈だ。「リーダーは優先順位を決めざるを得ず、そこには大いなる『悪意』が要ります。地獄へ行くような男に率いられない限り、改革はできません」

 フリードリッヒ二世は1194年生まれ。幼くしてシチリア王に即位した。長じて神聖ローマ帝国皇帝として戴冠(たいかん)し、世俗界の最高位に君臨する。有能ならばアラブ人もユダヤ人も重用し、戦火を交えずに聖地エルサレムを取り戻す外交手腕を発揮した。名高い無血十字軍だ。一方、キリスト教会の最高位として破門を振りかざすローマ法王には徹底抗戦。キリスト教世界の内部で聖権とぶつかる様は痛快ですらある。

 多神教的だった古代ローマ世界と違い、この時代は人間の「顔」が見えにくい。だからこそ、不世出の王が打ち出す具体的な改革が際立つ。土地を仲立ちに力の強い者が支配する封建社会を、中央集権的な法治国家へと改造する。官僚機構を育てる。学芸を振興する。それらが「作品( オペラ )」に例えられて生き生きと描かれる。「あらゆる事業のうち、一人でできるのはお手洗いに行くことくらい(笑い)。だから彼は自分への協力者を尊重して働きやすくした。でも自分の手足として使うのであって、博愛主義ではありません」

 何やら、政治への不満が渦巻く日本社会にもの申したいご様子。「我々が託したんでしょ。だめだったら選挙で落とせばいい。主導権はこちらにあるんです」。本作には、古今東西変わらぬ政治的混迷への警句と皮肉が易しい文章で織り込まれるから、読む方もひざを打ったり、はたまたニヤニヤしたり……。

 ラストには、フリードリッヒ二世の終焉(しゅうえん)の地、南イタリアが登場する。心から愛した鷹(たか)狩りの際に発病したのだ。塩野さんは昨夏、麦畑に囲まれた小高い丘を訪ね、村の廃虚に立った。長年惚(ほ)れ抜いたスターに万感の思いを込めて筆をおいている。「フリードリッヒ二世を看取(みと)った気分です。読者の中で彼が生きてくれたらいいですね」<文・鶴谷真/写真・藤原亜希>
    −−「今週の本棚・本と人:『皇帝フリードリッヒ二世の生涯 上・下』 著者・塩野七生さん」、『毎日新聞』2013年12月29日(日)付。

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http://mainichi.jp/shimen/news/20131229ddm015070041000c.html





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