覚え書:「書評:彗星的思考 平井 玄 著」、『東京新聞』2014年1月19日(日)付。

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彗星的思考 平井 玄 著

2014年1月19日


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◆嗅覚で読むテキスト
[評者]丸川哲史=明治大教授
 書名「彗星(すいせい)」について、著者は簡潔に「恒星系を斜めに横切って旅する『宇宙のアノマリー(特異性)』」と述べている。本書のモチーフには否応(いやおう)なく、3・11以降の社会変動/運動がある。そして、いまだこの変動/運動の性格を正確に捉えた言葉は見つけられていない。確かに著者の指摘する通り、過去に引き起こされた数々の社会変動は、地震津波など天変地異との「関連」の中で捉えられることができる。ただその「関連」は果たして、自然に理解できるものでもなく、また既成の理論で説明できるものではない(まして原発事故も伴えば)。
 そこで強調されるのが、地震を予知するナマズの比喩だろうか、「嗅覚」や「聴覚」の力である。本書の論述対象の半分は竹内好谷川雁平岡正明など過去の様々なテキストであるが、その向き合い方に、つまりそれらの文章の行間に「嗅覚・聴覚」を鋭く働かせていること、これが本書の最大のメリットである。
 中でも、谷川雁がかつて中国的土壌との対比において書いた「日本の二重構造」を読破し、むしろ「三重構造」となっているという変形は見事である。所属意識のあり様が異なる為政者−臣民の下にさらに無所属の群衆を置くこと、そしてこの群衆がアジア世界やアラブ世界と繋(つな)がっているというアノマリーな思考の旅…。彗星的思考がここに働いている。
平凡社・2520円)
 ひらい・げん 1952年生まれ。批評家。著書『引き裂かれた声』など。
◆もう1冊 
 『谷川雁セレクション』(1)(2)(岩崎稔ほか編・日本経済評論社)。一九六○年代の名オルガナイザーの代表的論考集。
    −−「書評:彗星的思考 平井 玄 著」、『東京新聞』2014年1月19日(日)付。

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http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2014011902000165.html





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彗星的思考: アンダーグラウンド群衆史
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