覚え書:「今週の本棚・新刊:『天皇制の隠語(ジャーゴン)』=すが秀実・著」、『毎日新聞』2014年06月01日(日)付。
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今週の本棚・新刊:『天皇制の隠語(ジャーゴン)』=〓(すが)秀実・著
毎日新聞 2014年06月01日 東京朝刊
◇〓(すが)秀実
(航思社・3780円)
久々に読めた本格的な批評だ。近年「1968年」の若者叛乱(はんらん)の思想的意味を記してきた評論家の論集。発表済みのものに加え、書き下ろしの表題作を収めた。表題作は、小林秀雄の批評が「神格化」されてきた意味を問いつつ、戦前の日本資本主義論争で知られる講座派の影響が、どう今に引き継がれてきたかを分析する。
一般に、講座派は日本が明治維新後も「封建遺制」を残しているとして、天皇制を批判したとされる。彼らの主張は、戦後、共産党が引き継いだ。ところが本書は、講座派の発想は「日本には封建残滓(ざんし)という資本があるゆえ、逆に西欧近代を超克しうる」と飛躍できたと説く。だから、講座派は戦争協力に走れた。戦後の市民社会派も講座派の影を引きずり、資本主義以前の農村共同体などに理想の一つを求めた。他方天皇制は、こうした論理転換で、むしろカッコに入れられた。その「負」の遺産は、今の反貧困や脱原発の運動にまで引き継がれている。
他の論文は、ベーシックインカム論から萩原健一、宮崎駿、大阪万博までをネタに、資本主義を問う。あらゆる文化事象を横断した内容は、読み応え十分である。(生)
−−「今週の本棚・新刊:『天皇制の隠語(ジャーゴン)』=すが秀実・著」、『毎日新聞』2014年06月01日(日)付。
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