覚え書:「人類5万年 文明の興亡―なぜ西洋が世界を支配しているのか [著]イアン・モリス [評者]水野和夫(日本大学教授・経済学)」、『朝日新聞』2014年06月08日(日)付。

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人類5万年 文明の興亡―なぜ西洋が世界を支配しているのか [著]イアン・モリス
[評者]水野和夫(日本大学教授・経済学)  [掲載]2014年06月08日   [ジャンル]歴史 

■決め手は、時々の地理的条件

 英国の歴史学者ホブズボームは20世紀を「極端な世紀」と名付け、「8千年の歴史の終わり」と位置付けたが、本書を読むと前世紀は「狂気の世紀」だと思えるし、人類に100年後の未来はあるのかと不安が募った。
 本書は氷河期が終わった紀元前1万4千年から現在に至るまで、エネルギー獲得量や都市化度合いが示す「社会発展の鼓動」を基に著者が独自に指数化した「社会発展指数」を駆使しながら、西洋と東洋の興隆と衰退を解明する。
 従来、西洋の優位性について、「長期固定」理論と「短期偶発」理論が対立してきた。前者は西洋人は「他民族よりも文化的に優れている」と考え、後者は西洋が「アヘン戦争間際の1800年代に入ってはじめて一時的に東洋をしのいでいるのであって、それすらほとんど偶然の出来事だった」と主張する。
 著者は両説とも誤りだと断定する。「どこへ行こうと何をしようと、人間は、大きな集団として考えれば、みな同じ」。6世紀半ばから18世紀後半にかけて東洋が西洋をしのぎ、その後、西洋が東洋を圧倒したのは、いずれも当時の政治上、経済上の地理的条件の違いが決め手だった。
 産業革命が「何もかも」の時代、すなわち「貪欲(どんよく)に夢見る以上のものが得られる物質的豊かさの時代」を到来させた。21世紀には、東洋が西洋を再逆転するとみられるが、本当の問いは「私たちはどこへ向かうのか」だという。
 氷河期後から2000年までに西洋の社会発展指数は、900点上昇している。20世紀の100年だけで736点増えたこと自体驚異的だが、21世紀末には東洋の点数は、4千点以上上昇すると著者は予測する。「私たちは、歴史における最大の断絶点」に近づきつつある。「新しい存在に進化する」のか、「夜来たる」なのかは、「時代が必要とする思想」を手に入れられるかどうかにかかっている。
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 北川知子訳、筑摩書房・各3888円/Ian Morris 60年英国生まれ。米スタンフォード大学教授(歴史学)。
    −−「人類5万年 文明の興亡―なぜ西洋が世界を支配しているのか [著]イアン・モリス [評者]水野和夫(日本大学教授・経済学)」、『朝日新聞』2014年06月08日(日)付。

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