覚え書:「フルサトをつくる−−帰れば食うに困らない場所を持つ暮らし方 [著]伊藤洋志、pha [評者]隈研吾(建築家・東京大学教授)」、『朝日新聞』2014年07月13日(日)付。

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フルサトをつくる−−帰れば食うに困らない場所を持つ暮らし方 [著]伊藤洋志、pha
[評者]隈研吾(建築家・東京大学教授)  [掲載]2014年07月13日   [ジャンル]文芸 社会 

■現代の参勤交代が日本を救う

 参勤交代を復活すべきだというのが、養老孟司の説である。都市と地方の格差解消策、過疎化対策として有効なことはわかるが、現実的に無理だろうと思っていた。
 しかしこの本を読んで、参勤交代は復活できると確信した。しかも、上からの強制によらず、各自が勝手に、自分たちの帰る場所を見つけ、それを自分のフルサトとして再定義することができれば、結果としてそれが現代の参勤交代となり、日本を救うかもしれないのである。
 2人のニートギーク(オタク)っぽくてゆるめな若者の主張が説得力を持つのは、2人が縁もゆかりもなかった熊野という場所に通って、新しいフルサトつくりを実践し、それなりの成果を獲得し、かなり充実した感じで実際に「交代」しているからである。
 2人がフルサトつくりに成功したのは、骨を埋めようという面倒臭いことは考えず、可能な限り軽くて、気楽に場所をエンジョイし、友達を作ったからである。都市の再生に用いられるシェアハウス、シェアオフィスという新しい概念も、彼らは地方でこそ有効だと考えて、実践した。
 まず2人は熊野が好きになって通いはじめた。その「通う」感じがまさに参勤交代で、「通う」距離感が、地域と東京との新しい関係性を作り、おかみに頼らず、補助金にも大資本にも依存しない、地域のお気楽な活性化の鍵となる。移動によって、シェアによって「小さなお金を」生み出す具体的秘策ももりだくさんである。「小さなお金」で満足できれば、フルサトは誰でもつくり出せる。
 これは定住とも遊牧とも異なる第3の道である。読み終わって、日本人にはそもそも、こんな軽いフルサトが似合っていたような気がしてきた。日本人は縄文の頃から、採集生活が得意で、物を拾い集めて場所を渡り歩くような、軽やかな生き方をしてきたのだから。
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 東京書籍・1512円/いとう・ひろし 著書に『ナリワイをつくる』、ファ 著書に『ニートの歩き方』。 
    −−「フルサトをつくる−−帰れば食うに困らない場所を持つ暮らし方 [著]伊藤洋志、pha [評者]隈研吾(建築家・東京大学教授)」、『朝日新聞』2014年07月13日(日)付。

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