覚え書:「【書く人】明るいエロの開放感『秘宝館という文化装置』  北海道大特任助教 妙木(みょうき)忍さん(37)」、『東京新聞』2014年08月31日(日)付。

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【書く人】

明るいエロの開放感『秘宝館という文化装置』  北海道大特任助教 妙木(みょうき)忍さん(37)

2014年8月31日
 
 性をテーマとした遊興空間、秘宝館。一九七〇〜八〇年代に全盛を極め、全国の温泉地周辺で少なくとも二十館を数えた。「おじさんがエッチな興味で行くところでしょ」。そんな思い込みを覆す、画期的な書物だ。ジェンダー(社会的性差)研究が専門の若い女性学者が、秘宝館を解剖し、社会的意義を考察した。
 性にまつわる土着の信仰や祭りは古来、存在する。だがここで取り上げるのは、あくまでも性のテーマパーク、商業娯楽施設としての秘宝館だ。その第一号は七二年十月に三重県伊勢市郊外にオープンした元祖国際秘宝館伊勢館。創業者はテレビCMで宣伝し、七六年の来場者は二十六万人を超えた。
 伊勢の秘宝館には、妊娠子宮模型などを展示する「保健衛生コーナー」があったが、それ以降に誕生した秘宝館からは消えた。代わりに娯楽性が強まった。
 観客がボタンを押すと、スーパーマン風の男性人形が女性と合体して空を飛び始める「性技の使者スーハーマン」。ラクダの上で男女の人形がギコギコと機械音を立てて交接する「アラビアのエロレンス」…。
 「男も女も一緒に笑える、明るいエロ。『脱力感』が最大の特徴といえるかもしれません」と妙木さんは語る。
 なんと、北海道秘宝館(札幌市)は女性客を初期からターゲットにした。パンフレットには「世界で初めての“おんなの遊園地”誕生!!」とある。女子労働力率の上昇や共働き世帯の増加など、時代の転換点が七五年から八〇年代初頭にかけてあった。それは秘宝館をつくった人たちが、余暇に旅する女性の存在に注目した時代と重なる。
 海外の性愛博物館と異なるのは、精巧な人体模型を使い、観客参加型の機械仕掛けを多用していること。当時、映画や舞台、遊園地などの装置製作で活躍した一流の技術者たちが、精魂込めて作り出した。
 「秘宝館と、秘宝館を作り出した人々を心から尊敬しています。性を隠微な世界に閉じ込め、ある意味で女性を性的な娯楽から排除してきた歴史を考えれば、これほど健全な施設はなかったかもしれない」
 妙木さんが研究を始めた二〇〇五年には七館あったが、今年に入り、全国最大規模だった佐賀県の嬉野武雄観光秘宝館が閉鎖。残るは二館となった。滅びゆく技術と文化を惜しみながら、記憶を継承したいと願う。
 青弓社・二一六〇円。
 (出田阿生) 
    −−「【書く人】明るいエロの開放感『秘宝館という文化装置』  北海道大特任助教 妙木(みょうき)忍さん(37)」、『東京新聞』2014年08月31日(日)付。

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