覚え書:「書評:「健康第一」は間違っている 名郷 直樹 著」、『東京新聞』2014年10月05日(日)付。
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「健康第一」は間違っている 名郷 直樹 著
2014年10月5日
◆限りある医療をどう分配
[評者]山岡淳一郎=ノンフィクション作家・東京富士大客員教授
挑発的な本である。「長生きを目ざすのは間違っている」で始まり、保健データを示し、日本人の生活習慣は改善されており、心疾患やがんが増加する要因は長生きだと指摘。健康欲をコントロールして死を受け入れる選択肢を持て、と説く。
正直に言えば、読み始めてすぐ、死生観は医療だけで決まるものではない、個人の心の領域に価値観を押しつけられたくない、この種の議論は医療費抑制論に短絡され「貧乏人はさっさと死ね」という極論に結びつけられはしないか、とやや違和感を覚えた。
しかし、読み進めて蒙(もう)を啓(ひら)かれる。「健康第一」の掛け声で、製薬会社の営業力で効果も定かでない降圧薬が処方され、早期発見・早期治療の乳がん検診が過剰に行われている実態が語られる。認知症でも早期治療がよしとされ、軽度の人に治療が施される。
「認知症患者にとって大きな不安やストレスとなるのは、ボケてしまうまでの過程」と言う。その過程を薬で延ばして、長期間のストレスを与えて治療効果と呼べるのかと問題提起する。
一方で、おたふくかぜやB型肝炎のワクチンは効果が大きいのに公費での接種すらできない。なぜか? 「降圧薬や乳がん検診、認知症の早期発見のあとには、高血圧患者、乳がん患者、認知症患者に対して医療を提供するという次のステップがある。しかし、ワクチンは病気を予防して終わり。その後医療を提供する必要がない」
つまり「健康第一」で医療は市場化され、利害関係者らの食いものにされている。医療資源は限られており、優先順位をつけねばなるまい。
「医療においては、高齢者が若者に譲る時代が来ているのではないか」と、著者はストレートに問いかける。
医師がこういう本を書く時代になったのだなぁと思う。世界には平均寿命が五十歳を切る国がかなりある。
「足るを知る」ということか…。
(筑摩選書・1728円)
なごう・なおき 1961年生まれ。医師・武蔵国分寺公園クリニック院長。
◆もう1冊
近藤誠著『がん治療で殺されない七つの秘訣(ひけつ)』(文春新書)。現行のがん治療が患者の寿命を縮める陥穽(かんせい)を指摘し、無治療延命を提起。
−−「書評:「健康第一」は間違っている 名郷 直樹 著」、『東京新聞』2014年10月05日(日)付。
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http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2014100502000183.html