覚え書:「金言:HP削除のマイナス=西川恵」、『毎日新聞』2014年10月17日(金)付。

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金言:HP削除のマイナス=西川恵
毎日新聞 2014年10月17日 東京朝刊

 <kin−gon>

 外務省が元従軍慰安婦問題に取り組んできたアジア女性基金の「国民への呼びかけ」を10日、ホームページ(HP)から削除した。衆院予算委員会で次世代の党の山田宏幹事長が「問題がある」と指摘したことに応じたものだ。

 この「呼びかけ」(1995年7月18日)は元慰安婦への償いのため、アジア女性基金を設立し、国民に寄付を募ることを明らかにした、いうならば問題解決に向けた日本の強い意思表明だ。同省は外交上の負の影響を十分に考慮して削除したのだろうか。

 アジア女性基金が取り組んだ元慰安婦問題を大きな構図で見るなら、フィリピン、台湾、インドネシア、オランダの4カ国・地域は解決をみて、残るのが韓国だ。

 しかし解決した4カ国・地域は日本政府の言動を注視し続けている。元慰安婦問題で謝罪と反省を表明した河野談話を否定するような動きがあると、オランダ政府などはすぐに懸念や批判の談話を出す。直接関係しない米欧諸国も「女性の人権」という今日的観点から日本の姿勢を見守っており、日本外交は元慰安婦問題で極めて慎重な対応が求められている。

 一方、残る韓国は「日本が解決する問題」と言う。しかしこれは日韓両国が協力して解決すべき問題である。韓国は同基金の事業に最初は賛意を示した。しかし市民団体の圧力に態度を変え、同基金から償い金を受け取った元慰安婦を差別さえし、社会で孤立させた。問題が混乱している責任の一端は同国政府側にもある。だからこそ両国が協力して解決すべきなのだ。

 この時、日本が一つの支えにできるのは国際社会の声だ。米国には同基金の事業を評価している識者がいる。韓国にも少数だが「日本はそれなりのことはやってきた」と国内でバッシングを受けながらも言い続けている識者を私は知っている。こうした声は「日本は何もやってない」という韓国政府に圧力となる。

 ただそうした声を増やしていくには日本政府の態度がブレないことが大切なのだ。そしてなるべく多くの人に同基金がやってきたことをHPを通して知ってもらう。同省が同基金の基本文書とでもいうべき「呼びかけ」を削除したのはこの点でマイナスだ。

 朝日新聞の謝罪で勢いづく反朝日の論壇には、元慰安婦問題自体を否定するような主張もある。国際社会で「右翼化する日本」の負のイメージが広まっていることは同省も十分承知のはずで、削除がこの延長で捉えられることを危惧する。(客員編集委員) 
    −−「金言:HP削除のマイナス=西川恵」、『毎日新聞』2014年10月17日(金)付。

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http://mainichi.jp/select/news/20141018k0000m040011000c.html





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