覚え書:「今週の本棚・新刊:『靖国神社と幕末維新の祭神たち 明治国家の「英霊」創出』=吉原康和・著」、『毎日新聞』2014年11月09日(日)付。
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今週の本棚・新刊:『靖国神社と幕末維新の祭神たち 明治国家の「英霊」創出』=吉原康和・著
毎日新聞 2014年11月09日 東京朝刊
(吉川弘文館・2484円)
靖国神社といえば、太平洋戦争の戦没者の追悼施設のように思われがちだが、もともとは対外戦争の戦没者を祀(まつ)る目的の施設ではなかった。
神社は1869年(明治2年)6月、東京招魂社として創建されるが、最初に祀られたのは戊辰(ぼしん)戦争の「官軍」(新政府軍)側の戦没者。その後、吉田松陰、坂本龍馬ら幕末の国事殉難者が合祀(ごうし)されていく。
幕末維新の内戦を制した薩長を中心とする新政権の正当性の拠(よ)り所とされたためだが、明治30年代ともなると、日本人を「官軍」と「賊軍」に分断する顕彰のあり方は、さすがに統一国家の妨げになると問題となった。
その直接的な契機は日清戦争だった。以来、同神社は薩長のための施設から対外戦争で戦没した軍人を祀る施設へと変容していくが、「賊軍」側の人々の復権を求める明治維新の清算は不徹底なままに終わった。日露戦争後にそのチャンスは訪れたが、「『官賊混同』の歴史観」と薩長藩閥政府の元老たちが妨害に立ちはだかる姿をリアルに描き出している。
死者は常に時の権力者たちの勝手な解釈に翻弄(ほんろう)される。そんなメッセージが伝わってくる一冊だ。(省)
−−「今週の本棚・新刊:『靖国神社と幕末維新の祭神たち 明治国家の「英霊」創出』=吉原康和・著」、『毎日新聞』2014年11月09日(日)付。
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http://mainichi.jp/shimen/news/20141109ddm015070057000c.html