覚え書:「リレーおぴにおん 女と女:7 自由で豊かなフェミニズム 岡野八代さん」、『朝日新聞』2014年11月19日(水)付。

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リレーおぴにおん 女と女:7 自由で豊かなフェミニズム 岡野八代さん
2014年11月19日

岡野八代さん=桐本マチコ撮影
 本格的にフェミニズムに向き合い始めたのは1990年代半ばです。留学先のカナダで、政治思想のフェミニスト的な読み方を学びました。そのとき慰安婦問題に出会って戦後50年の年に日本に帰国、日本でも男性とは違う手法で新しい研究を切り開こうとしている先輩女性たちに刺激を受けました。

 そんな私の目には、フェミニズムを非難するバックラッシュは異様に映りました。すべて男社会が悪いと決めつけ、男女の区別をなくそうとする極端な女がフェミニストだという、ゆがんだイメージが流布されていました。

 構造的な理由もあったのでしょう。70年代、主婦を含む草の根の女性たちから始まったウーマンリブ手弁当の運動に比べると、男女共同参画社会基本法が施行された99年ごろには、大学や行政・公的機関で働くフェミニストも出てきて、一定の社会的影響力を持つことへの反発が出てきたのではないでしょうか。

 残念なことに、フェミニズムへの誤解はなくなったとはいえず、若い人たちへの浸透度もまだまだです。女性の地位や意識面では様々な進歩があったにせよ、女性の非正規労働者は増え、男女の賃金格差は大きく変わっていないにもかかわらず、です。

 フェミニズムは多様で自由で豊かな思想であることを、伝えなければと思います。結婚や家族のあり方に疑問を呈してはいますが、単に家族を否定するということではありません。むしろ、子育てや家事、介護など、女性たちが家族の中で担ってきた仕事の意義を尊重し、表面的な「自立」の陰に隠れてきた受け身で依存的で、それゆえ政治の場から排除されてきた「弱い主体」を再評価するのが、私のめざすフェミニズム政治学です。

 自分自身をいったん脇に置いて、目の前の子供のニーズに応えようとする「ケアの倫理」。女性だけにケアの責任を負わせてきた社会の構造を変革していく一方で、こうした倫理こそが、非暴力と正義を求める、グローバルな連帯の可能性を秘めていると考えています。

 性をめぐる問題は唯一の解があるわけではない。だからこそ女たちのつながりの中で、たえず葛藤し、揺らぎながらでも自分たちの言葉を生みだそうと、「WAN(Women’s Action Network)」という認定NPO法人で活動しています。若い世代への伝え方を真剣に考えなければと心しています。

 (聞き手・藤生京子)

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 おかのやよ 同志社大学大学院教授 67年生まれ。専攻は西洋政治思想史・現代政治理論。著書に「シティズンシップの政治学」「フェミニズム政治学」など

 ◇次回は26日に掲載する予定です。 
    −−「リレーおぴにおん 女と女:7 自由で豊かなフェミニズム 岡野八代さん」、『朝日新聞』2014年11月19日(水)付。

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http://www.asahi.com/articles/DA3S11462797.html





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