覚え書:「ネコ学入門−猫言語・幼猫体験・尿スプレー [著]クレア・ベサント [評者]横尾忠則(美術家)」、『朝日新聞』2014年11月23日(日)付。
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ネコ学入門−猫言語・幼猫体験・尿スプレー [著]クレア・ベサント
[評者]横尾忠則(美術家) [掲載]2014年11月23日 [ジャンル]科学・生物
■実は人がしつけられている
つい最近わが家の猫が死んだが、もっと早く本書と出会っていれば後悔も反省もせずに猫に評価される人間になれたかも。猫にとって魅力的な存在になることは、人間社会においても好感の持てる価値ある存在になり得る可能性があると言うんです。
猫をペットとして一方的な愛情を押しつけ、猫を私物化することであなたは猫の最も軽蔑すべき対象となり、追えば追うほど猫から無縁の存在になっていくのだ。猫が好む人間はむしろ猫に無関心。猫は独立、独歩、自立心が強いために余計なお世話には耐えられない。大方の愛猫家は過剰なおせっかいをし、その結果は嫌がられるのが落ち。
猫は、体の大きさと比較した脳の大きさが霊長類やイルカと同等でそれ以外の哺乳類より大きく、記憶力抜群、引っ越しなどした遠方から元の家に帰還したり、暗闇の中でもぶつからずに敏速に行動する驚異の方向感覚を持っていたり、家人の帰宅をその正確な体内時計で出迎えたり。
また天変地異を前もって予知して安全な場所に幼猫を誘導したり、時には人間にその危険を気づかせる超自然的な能力を発揮したりという例は世界中枚挙にいとまないほど報告されている。このような第六感的な感覚は人間が文明の進化と共に喪失した野性の自然感覚である。
人間は猫をしつけていると思っているが実は猫にちゃっかりとしつけられている。人間は猫を飼育しているつもりでいるが猫は飼い主を下僕扱いしているのである。猫は常に縄張り内で行動し、人間のように他人の縄張りを侵略したりしない。自分の縄張り内が全世界でそれ以上のテリトリーは不要。与えられた環境で人間と共存しながら、過不足なく受け入れることのできるキャパシティーには悟性すら感じないか? 人間が猫から学ぶことは「好きなことはするが嫌なことはしない」という思想である。
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三木直子訳、築地書館・2160円/Claire Bessant 英国のインターナショナル・キャットケア代表。
−−「ネコ学入門−猫言語・幼猫体験・尿スプレー [著]クレア・ベサント [評者]横尾忠則(美術家)」、『朝日新聞』2014年11月23日(日)付。
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