覚え書:「【書く人】再生の時間じっくり描く 『鳥たち』 作家 よしもと ばななさん(50)」、『東京新聞』2014年11月30日(日)付。

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【書く人】

再生の時間じっくり描く 『鳥たち』 作家 よしもと ばななさん(50)

2014年11月30日

 約一年ぶりの長編小説。「自分の得意なことを得意な書き方で」仕上げたという、よしもとばななさんらしさの詰まった一冊だ。
 主人公は女子大生・まこと二歳下でパン職人の嵯峨。二人は米アリゾナ州セドナで一緒に育ったが、共同生活を送っていた親たちが相次いで他界したため、日本で暮らすことになる。重い過去を背負い、周囲の人々とも簡単に馴染(なじ)むことのできない二人が、お互いを支えに前に進もうとする姿をじっくり描き出す。
 身近な存在の喪失を少しずつ受け入れていく主人公の姿は、ほかの作品でも繰り返し描いてきた。読む人の抱える孤独にもそっと寄り添い、再生に向けての希望を示す。「私自身のメッセージを込めているというよりは、それぞれの物語が発するメッセージを忠実に再現しようとしています。物語の要求を聞いて、それを翻訳する力が強い方なんだと思う」
 まこの親たちや、大学で出会う教授の言動には、ヒッピーなど一九七〇年代文化の影響が色濃い。「今回、私の思いが出ている部分があるとしたら、当時の雰囲気ですね。あのころあった楽観的なゆったりした時間の流れが、今の世の中には足りないと思うんです。みんな予定を詰め込んであまりに忙しそう。もう少しゆっくり構えてもいいんじゃないかな」。作中で引用されるメキシコ・チョンタル族の古謡からも、豊かな時間感覚が伝わる。
 一昨年、よしもとさん自身も父で思想家の吉本隆明さんと母親を亡くした。作品づくりに変化はあったのだろうか。「年齢的に覚悟はしていました。寂しい気持ちもありますが、人間として自然のことだと受け止めています。ただ亡くなる前の十年ほどは、親の医療費などがかさんでずっと気が張った状態だったんです。それがなくなってゆるんだのが、書く時の気持ちに大きく影響していますね」
 二十代初めのデビューから、もうすぐ三十年を迎える。書いたものを「寝かせる」ことができるようになったのが一番変わった点だという。「前は、間を置くと時代の流れに追いつかなくなって困ると思っていたんです。今は、それよりも時間を置いて客観的に見ることでクオリティーを高めるほうを優先できるようになってきました」。落ち着いた笑顔を見せた。
 集英社・一四〇四円。
  (中村陽子)
    ーー「【書く人】再生の時間じっくり描く 『鳥たち』 作家 よしもと ばななさん(50)」、『東京新聞』2014年11月30日(日)付。

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