覚え書:「SUNDAY LIBRARY:南 伸坊・評『鶴見俊輔 全詩集』鶴見俊輔・著」、『サンデー毎日』毎日新聞社、2014年12月21日。

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SUNDAY LIBRARY:南 伸坊・評『鶴見俊輔 全詩集』鶴見俊輔・著
2014年12月09日

 ◇お爺さんになるまで何度でも読みたい



サンデー毎日オフィシャルホームページ
◆『鶴見俊輔 全詩集』鶴見俊輔・著(編集グループSURE/税抜き3400円)

 うすみどり うすもも うすきひなあられ

 この句は、私が毎年依頼されて作る俳画カレンダーのための句です。

 このていどの俳句を作るやつの言うこと、として聞いてもらいたい。私は、詩というものが、まだよくわかっていない。

 しかし、俳句を書けといわれれば指を折りながら、小学生が宿題をやるように俳句を書く。五・七・五になるように工夫して、季語をおりまぜれば、俳句みたいになる。

 俳句っていうのは「そんなもんじゃない」かもしれないけど、まァ、自分でも作れちゃう。そこも俳句のいいところじゃないの? くらいに思っている。

 わからないのが詩、ですね。常ならぬコトバの使い方をする。とか、不思議なイメージをコトバで造形していく、とか、美術や広告コピーのように類推すれば、ある程度はたのしめる。

 しかし、そんな風にたのしい詩はこれまで数えるほどしかない。

「現代芸術はわからない」

 という人があると、私は「わからない」んじゃない。現代芸術は「つまらない」んです。と血相変えて力説します。だからほんとは「現代詩はわからない」と言いたくない。

「現代詩はつまらない」とはっきりいいたいと思っている。その私が『鶴見俊輔 全詩集』を読んで、紹介したいというんです。

 どういうことか?

 という話です。私が現代詩を毛嫌いしているのは、カッコつけてんじゃねえのか?疑惑です。

 わざと難しくしてんじゃね?疑惑でもある。しかし、私は鶴見俊輔先生の文をいままで読んできて、その正反対の感想を持っている。

 わざと難しくしたり、カッコつけたりする必要がどこにもない鶴見先生が書いた詩っていうのは、それじゃあなんなのか!−

 と思って、私は詩集を読み出した。詩だから、いつもの文章とは違う。けれども、やはりその詩は、鶴見俊輔の文章だと、わかる。同じ人が書いている文だとわかります。

 だが、詩なのだ。ものすごく明快にわかるというのじゃない。だが、つたわってきて、私がうけとったものはまちがっていないと思う。

 というより、ちゃんと、うけとるものがある。「正解は巻末にある」なんていうのはもっとも鶴見俊輔的でない考えじゃないか。

 私は「うけとりました」と思うけれども、しかし、すみずみまで、じゅうぶんに「うけとりました」というのとは違うのだ。

 つまり、すみずみまで解るというような、そういううけとりかたでないのが、詩なのかもな。と、私は詩人が鶴見俊輔先生なのでわかったかもしれない。例えばこんなの。

 かたつむり

深くねむるために 世界は あり ねむりの深さが 世界の意味だ

 私は、この詩集を、自分がもっとほんとのお爺さんになるまで、何度でも読もうと思う。最後に冒頭にあわせて鶴見さんのひなあられの句。

 春浅く 静かにたべよ 雛あられ

※本書のご購入については、編集グループSURE(TEL:075・761・2391)にお問い合わせください。

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みなみ・しんぼう イラストレーター。ブックデザイナー。1947年東京生まれ

サンデー毎日 2014年12月21日号より>
    −−「SUNDAY LIBRARY:南 伸坊・評『鶴見俊輔 全詩集』鶴見俊輔・著」、『サンデー毎日毎日新聞社、2014年12月21日。

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http://mainichi.jp/feature/news/20141209org00m040019000c.html






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