覚え書:「今週の本棚・本と人:『現代の建築家』 著者・井上章一さん」、『毎日新聞』2015年02月08日(日)付。

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今週の本棚・本と人:『現代の建築家』 著者・井上章一さん
毎日新聞 2015年02月08日 東京朝刊


 (エーディーエー・エディタ・トーキョー・3456円)

 ◇「日本人の自我」反映した景観−−井上章一(いのうえ・しょういち)さん

 幕末生まれでクラシックな銀行建築を手掛けた長野宇平治から、世界的に活躍する安藤忠雄まで。国際日本文化研究センター教授の著者が、近現代の代表的な建築家20人を論じた。

 本来の専門は建築史だが、美人論や霊柩(れいきゅう)車、名古屋の金シャチなど、ジャンルを超えた斬新なテーマに挑んできた。本書でも定説を覆す視点を幾つも提示。資料を読み解き、時に推理を働かせて、建築家の「振る舞い」から浮かぶ姿を凝視する。

 たとえば哲学的な雰囲気を持つ建築で知られる白井晟一(せいいち)。戦後は質素な公共の建物を設計したが、後半生は豪華な商業建物をつくり「貴族趣味」と評された。だが彼が残した文章や作品を調べ、「民衆のための建築家」という志を持ち続けたと考える。高度成長期を経て国民が豊かになり、それを感じ取って作風を変えたのだ、と。

 執筆に際して「普通の人の見方を大事にした」と話す。端的に表れているのが、日本におけるモダニズム建築の黎明(れいめい)期を牽引(けんいん)した吉田鉄郎の章だ。名作とされた彼の東京や大阪の中央郵便局は、専門家の反対にもかかわらず、解体された。一方で未熟な初期作品がレストランに転用され、ひっそりと保存されたエピソードを紹介。愛される建築とは何か、考えさせられる。

 茶室研究で有名な堀口捨己(すてみ)のマスコミ人脈、インテリアには関心が薄かった丹下健三……。従来のイメージと異なる建築家の横顔も興味深い。

 全体を通じて描き出そうとしたのは、建築や街並みに反映された「日本人の自我」だ。「明治以降、日本人は西洋建築を『進歩のシンボル』として受け入れた。古典様式であれモダニズムであれ、自由な表現を許容してきた」。その姿勢が混沌(こんとん)として統一感がない都市景観につながったと見る。

 「古い様式の縛りが強く、調和が重視されたヨーロッパの街に比べ、日本は建築における近代的自我を開放したと言える。日本人は『和をもって貴しとなす』傾向が強いとされるが、建築は正反対。その一点で、明治から現代までは地続きになっているのです」。とらわれない精神で、社会の表象を見つめ続ける。<文と写真・永田晶子>
    −−「今週の本棚・本と人:『現代の建築家』 著者・井上章一さん」、『毎日新聞』2015年02月08日(日)付。

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http://mainichi.jp/shimen/news/20150208ddm015070033000c.html



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井上章一 現代の建築家
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