覚え書:「書評:21世紀の資本 トマ・ピケティ 著」、『東京新聞』2015年02月08日(日)付。


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21世紀の資本 トマ・ピケティ 著

2015年2月8日
 
◆格差縮める累進課税提言
[評者]橋本努=北海道大教授
 資本主義の格差問題に一石を投じた世界的なベストセラーの邦訳である。市場経済をこのまま放置しておくと、富者にますます富が集中してしまう。例えばトップ10%が毎年の総生産の90%を独占し、トップ1%がその50%を独占するとなれば、どうだろう。革命が生じるのではないか。二十一世紀の資本主義は実際にそんな危険な傾向をはらんでいるのだと警告する。
 二十世紀の資本主義は、戦争が続いた前半期に階層間の格差を縮め、経済成長が続いた中盤に「よき古き平等社会」を実現した。ところが一九七○年代以降、経済成長率の鈍化と共に再び十九世紀後半のような格差社会へと戻っていく。本書によれば、格差拡大の主要因は資本蓄積の増大と経済成長率の低下であり、この二つの傾向が続けば富は上位者に一層累積するという。
 興味深いのは、所得格差が拡大しているといってもその実態は上位1%に所得が集中し、トップ10%の残りの9%は七○年代以降、さほどシェアを拡大していない点だ。総所得は1%の「スーパー経営者」に集中している。
 こうしたいわば「独り占め型」の所得集中を避けるためには、あらゆる資本に対して累進的な税を課すべきだというのが著者の持論。固定資産税の仕組みを拡張して、株や普通預金などのあらゆる資本に課税すべきだとする。
 実現のためには国際的資金移動を透明化するなど、制度面でのハードルも高い。またかりに課税したとしても、追加的な税収は国民総生産の2〜3%程度にとどまるかもしれない。それでも資本税を課すべき理由は、私たちが富める者たちの資産を把握し、市場経済のルール(課税のルール)を民主的に制御すべきだという著者の信念からだ。民主主義のために世界各国が協力し、タックス・ヘイブンを規制したり税制の相互調整を図る必要がある。道のりは険しいが、グローバル化に反対する経済ナショナリズムよりも格差問題の解決に資するはず、と訴える。
山形浩生ほか訳、みすず書房 ・ 5940円) 
 Thomas Piketty 1971年生まれ。パリ経済学校教授。
◆もう1冊 
 ポール・クルーグマン著『さっさと不況を終わらせろ』(山形浩生訳・早川書房)。リーマン・ショック以降の各国の財政政策に警鐘。
    −−「書評:21世紀の資本 トマ・ピケティ 著」、『東京新聞』2015年02月08日(日)付。

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