覚え書:「今週の本棚・この3冊:歌舞伎=成毛眞・選」、『毎日新聞』2015年04月05日(日)付。

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今週の本棚・この3冊:歌舞伎=成毛眞・選
毎日新聞 2015年04月05日 東京朝刊

 <1>絵本 夢の江戸の大歌舞伎(服部幸雄著、一ノ関圭イラスト/岩波書店/2808円)

 <2>繪本 仮名手本忠臣蔵安野光雅著/朝日新聞出版/3024円)

 <3>演目別 歌舞伎の衣裳(丸山伸彦監修/東京美術/2160円)

 歌舞伎は日本が世界に誇る総合芸術だ。その歴史は出雲阿国が1603年にかぶき踊りをしたことに遡(さかのぼ)る。いっぽうで歌舞伎は、いまでも観客の見物料で商業公演されている世界でも稀有(けう)な伝統芸能なのだ。もし、歌舞伎が難解な古芸術だったならば、いまごろは国の保護を必要としていたに違いない。

 切符代に大枚を叩(はた)いてまでも見たい歌舞伎の素晴らしさを伝えるために言葉はいらないはずだ。もともと視覚・聴覚に訴える総合芸術なのだから、ここでは3冊のビジュアルな大判本を紹介してみたい。

 『絵本 夢の江戸の大歌舞伎』はたった15枚の漫画で構成されている本だ。税別で2600円もする。それでもなお、この本を歌舞伎入門の第一としたい。江戸っ子の歓声が聞こえてくるような舞台風景、裏方の様子、芝居町の賑(にぎわい)。歌舞伎はこうやって愉(たの)しめばいいのだということを教えてくれる最良の教科書なのだ。

 歌舞伎を本当に愉しみたければ、ストーリーを理解することなど最後で良い。華やかな芝居小屋の雰囲気、役者の色気、おめかししてきた観客、音と匂い。それこそが歌舞伎の醍醐味(だいごみ)だ。一ノ関圭さんの優しく細やかな筆跡に、歌舞伎ファンならずとも癒やされるであろう。

 とはいえ歌舞伎に慣れてくると、ストーリーも愉しみたくなるはずだ。『繪本 仮名手本忠臣蔵』は赤穂浪士の討ち入りをテーマにしたこの芝居の筋書きだ。じつは歌舞伎の忠臣蔵は史実とはことなる。デフォルメされた人物や物語が新たに作られた。

 まさにドラマ化された忠臣蔵をさらに劇的に、さらに絵画的に描いたのは安野光雅画伯だ。31枚の見開き絵はただただ美しく、歌舞伎を知る読者にとっては贔屓(ひいき)の役者と重ねて落涙、これから観劇する人にとっては素晴らしき予習になるであろう。

 歌舞伎は役者を愉しむ道楽でもある。他の職業では考えられないほどの鍛錬を小学校にあがる前から宿命として背負った役者たちは、歌舞伎を知るものにとってスーパーマンだ。

 その役者を役にするのは化粧と衣装だ。『演目別 歌舞伎の衣裳(いしょう)』は演目別の衣装の写真を中心に編集された入門書だ。

 選ばれている演目と役者の写真は厳選されていて、その説明はないものの歌舞伎ファンにとっては唸(うな)らされることしきりの本だ。
    −−「今週の本棚・この3冊:歌舞伎=成毛眞・選」、『毎日新聞』2015年04月05日(日)付。

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http://mainichi.jp/shimen/news/20150405ddm015070031000c.html



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